失恋は風にのって

 今日彼氏に手ひどく振られた。

 雨の中を傘もささずに一人寂しく歩く。

 二人して君と歩いた住宅街のこの道も、一人で歩いてみるとやけに長い。

 歩きながら上を向いて、雨雲にそっと笑いかけてみる。

 その瞬間、彼氏と別れた海辺の田舎娘もきっと雨に打たれながら微笑んだ。

 と思う。

 頬を撫でる風が潮の匂いが混じっているように感じたから。

 あ、待って。

 風の中に瑞々しい若葉の匂いも混じっている。

 軽井沢のコテージに滞在している少女が一人、森の雨垂れの中で微笑んだ。

 私と同じ境遇の女の子が。

 風はいろんなことを教えてくれる。

 じゃあ、私の匂いも彼女たちに運んでくれないかな。

 少女は目をつぶってコンクリートの雨の匂いをすうっと吸い込んだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る