若菜と紗里 私のせい 3
しかしその外観は綺麗で、防犯もしっかりしている十階建てのマンションだった。
一応一軒家に住んでいる
「えぇ……」
そしてあまりの光景に開いた口が塞がらない若菜である。
「大学から近いのよ」
「金持ちだ……」
「ありがたいことに、親のおかげね」
実際紗里はもっと家賃が安く、人が二人で住める広さのアパートなどでもいいと言ったのだが、両親が一人暮らしするのなら、防犯がしっかりしている場所ではないとダメだと言ったのだ。
若菜を連れて、エントランスを抜けてエレベーターに乗る。その間、若菜は口を開けて天井を見ていた。
紗里の住む階は真ん中の五階だ。
エレベーターから降り、共用部の通路を進んで部屋の前にやって来る。
「ここよ」
紗里が鍵を開け、若菜を部屋に招き入れる。
「お邪魔しま〜す……壁が分厚い」
入った直後、自分の家では感じられない空気の流れと言うべきか、空間の圧迫感と言うべきか。とりあえずそのような防音がしっかりされていることを感じ取った若菜である。
「すごい特技ね。さ、遠慮せず上がって」
若菜は他人の家に上がるのに慣れていないらしく、何度も通っている紗里の実家に上がるのには慣れているが、場所が変わるとまた緊張してしまうのである。
「あ、えぁ、そう、だよね」
落ち着かな気に、端に脱いだ靴を並べた若菜が、廊下の隅を歩く。
部屋の間取りは一人で住むには広い2LDKだ。
「普通の家じゃん……」
あまりの金持ち戦闘力に若菜が震え上がる。
廊下から続く扉には、トイレや浴室へと続き、突き当たりがリビングだろう。
紗里の後ろを恐る恐る追いかけてリビングに入る。
「自分の家だと思って寛いでね」
「むりだよぉ……」
紗里の実家も綺麗で大きいが、それは家族で暮らす家だからということで、緊張こそしたがある程度慣れることはできた。しかし、このマンションは一人暮らしをするにしては広すぎる。
経済状況が違いすぎて、自分なんかが足を踏み入れてはいけないのではないかと考えてしまう。
そもそも、なぜ紗里みたいな品行方正、容姿端麗、文武両道、才色兼備、実家が太い、優しいという負の面が全く見当たらない、圧倒的な先輩と繋がりがあるのか解らなくなってきた。
「とりあえず座って。麦茶でいい?」
いつの間にか冷房もつけられており、綺麗なガラスコップにお茶を入れた紗里に座らされた。
「金持ちの感覚……」
沈み込むソファーから抜け出せそうにない。
勉強をするために紗里の部屋に来たということを忘れてしまいそうになる。
「あ……麦茶は家と同じだ……」
ただ、全てのレベルが違っても、麦茶は若菜の家と同じ味がする。それのおかげでなんとか、若菜の正気を保っている状態だった。
そんな若菜に微笑みかけ、紗里は若菜の目指している大学――自身が通っている大学の過去問を取りに行くため、リビングから続く扉の先である、自身の寝室として使っている部屋へ入るのであった。
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