涼香の誕生日会の準備中にて 5

「まさかあたしが綾瀬彩あやせあやと協力する日が来るなんてね」

「うるさいさっさと運べよ」


 三階へと続く階段に、机を並べている彩と凛空りく。二人の仕事は、誕生日会が始まった時の騒音対策、部活などで来ている下級生に気づかれないようにする措置だ。


「はっ、計算で忙しいんですー。まーあ、綾瀬彩にはできない計算だと思うんですけどね。だってあたしの方が頭良いし」


 黙々と机を並べていた彩が鼻で笑う。


「じゃあさっさと計算すれば? あたしは机並べながら計算しているけど。それにもう答え出したし。なにもしてないくせに計算遅すぎるとか。ただのクソギャルじゃねえか」

「はあ? あたしも終わってるんですけど? 今は如何にして使う道具が減らせるか考えてるんですー! この素直になれないヘタレのくせに」

「さっきと言ってること変わってるぞ」


 二人の口喧嘩が始まった瞬間、彩の背後から声が聞こえた。それは地面から這い出てくるような、重く憎しみの籠った声だった。


「凛空の方が頭が良い。そんなことも分からない脳みそは存在する価値無し」

「おい待て、なんでいるんだよ‼」

「あたしにも分かんない」


 突如背後に現れた真奈、確か家庭科室にいたはずだ。


「凛空への暴言が聞こえた」

「どっこいどっこいだろ」

「喉を潰せば一方的になる」


 そう言って彩の喉に手を伸ばす真奈。


「先に仕掛けたのあたしだから」


 そんな真奈に凛空言う。


「…………」

「おい、人の喉掴もうとしたまま固まんなよ」


 真奈の手から逃れた彩が心底面倒そうな表情を浮かべるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る