涼音の部屋にて 26

 早速ローテーブルに流しそうめん器をセットした涼音すずね。シンプルな、ただぐるぐる回るタイプの物だ。


 水を入れてスイッチオン。モーター音を立てて見事に回り始める。


「動きました」

「動いたわね」


 麺つゆと器も用意されている。あとはそうめんを流せば完了だ。


 いったいなにが悲しくて寝起きに流しそうめんをしなければならないのか分からないが、お腹が減っているので文句は言わない。


「流しますよ」

「お願い」


 涼音がそうめんを入れる。水の流れに乗ってそうめんがぐるぐる回り始める。


「なんでしょう……この、虚しい感じ」


 静かな夜に流れるそうめんを見る。テンションが上がらない。


「食べるわね」

「どうぞ」


 見ていてもなにも変わらない。とりあえず涼香が食べることにする。


 しかしさすが涼香りょうか、流れるそうめんを取ろうとするが、すぐに箸から通り抜けてしまう。


「取れないではないの」


 超高速回転ではないのだが取れない涼香、さすがである。


「なにやってるんですか」

「案外難しいわ。やってみなさい」


 涼香に言われ、次は涼音が取る。


 普通に取れるのだが、ここは涼香のために手本を見せた方がいいだろう。


 涼音はそうめんが流れてくるのを待ち構え、目の前を通り過ぎる瞬間、箸で流れとは逆方向にすくいあげる。


 見事に流れたそうめんを取ることができた。


「いただきます」


 いつもの容量でつゆにつけてそうめんを食べる。


「…………味薄いですね」


 いつもなら、ザルに上げられ水が切られているのだが、流しそうめんはその性質上水を切る段階が無く、水が絡んだままつゆの中に入るのだ。麺つゆが薄まって当然である。


「……それは余計に食べたくないわね」

「でも食べるしかないんですよね」


 二人は同時にため息をつくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る