夏休みにて 37

「今から、涼音すずねに歌を贈るわ」

「急ですね」


 夏休みのこと。


 いきなり歌い出そうとする涼香りょうかに、いつもながら心底面倒そうな目を向ける涼音。


 ちなみに涼香は、歌がそれほど上手い訳ではない。それに、涼音や涼香の同級生達は、菜々美の歌の上手さを知っているせいで、余計に上手く聞こえないのだ。


「聞いてください、涼音大好きの歌」


 エアアコースティックギターを弾きながら涼香は歌い出す。ちなみにギターの弾き方は知らない。


「涼音大好き~、涼音が大好き~、涼音のことが大好き~、涼音涼音涼音~、大大大大大好き~」


 歌にこそしているが、言っていることはいつもと変わらない。


 涼音は大きく伸びをしながら欠伸をする。歌っている涼香なんて見ていなかった。


「いい天気だなー」


 窓から夏の曇り空を見上げるのだった。

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