水原家にて 31

「期限が近いのを出してけばいいんですか?」

「そうね――といっても、全部近いのよ」


 まとめて買っているせいか、全ての賞味期限が近い。


「楽すぎません?」


 飲食物を箱から出している涼音すずねが言う。


 入れ替えるだけといっても、ただ期限が近いものを箱から出すだけ。掃除に比べると楽すぎる仕事だ。


「六箱は楽でしょうね。でも問題は、最後の一箱よ」

「えぇ……」


 水原みずはら檜山ひやま家の分は六箱で十分なのだ。余分な一箱、この中は恐らく他の六箱とは違うのだろう。


 今のインテリジェンスでジーニアスな気分の涼香りょうかには、この程度察するのは容易なことである。


「先輩の言う、お楽しみ箱ですか」


 涼音は嫌そうな顔を箱に向ける。


 この作業が楽すぎるのだ。最後の一箱は、多分きっと絶対面倒な作業を必要とするのだろう。


「ええ、あの中に入っているお小遣い。なにに使いましょうか」

「貯金と言いたいですけど、どうせなんやかんやで使いますもんね」


 今年の夏休みは例年通りとはいかず、結構外に出かけている二人である。


 できればもう外に出ること無く、家の中で静かに涼しく過ごしたい。


 外へ出るのは、涼香の誕生日だけでいい。

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