車の中にて 11

 めいなからカメラを借りた一行は、車に乗って出発した。


「無事に帰ることができてよかったわ……」


 相変わらず前方を睨みつけながら、菜々美ななみは安堵の息を吐く。


 今日、涼音すずね若菜わかなを誘った理由の中に、めいなの下へ行くからだというものがある。まさか家に上がることになるなんて思いもしなかったが。


「この後どうするの?」


 後ろから若菜が聞く。借りた機材はどこへ持っていくのか。学校に置いておくには早すぎるし、これだけのために呼ばれたとは考えにくい。


「ここねの家に向かうわ」

「ここねの家……なんだかんだで初めてだ」

「あたしらも入っていいんですか?」

「大丈夫だよお、お父さんとお母さんはいるけど」

「あっ、そうなんですか」


 そういうことではないのだが、いいというのなら別にいい。


「えっ⁉ ここねのお父さんとお母さんいるの⁉」

「うん、いるよ! 二人共菜々美ちゃんに会いたがっていたよ」

「えぇ……」


 菜々美は聞いていなかったらしく、少し車の進む速度が遅くなった気がする。


 土曜日なら、家に親がいるという可能性は高い。


「やっぱり、なんか緊張するね」


 部活など、外で同級生の親と接する機会はあっても、同級生の家で会ったことの無い若菜だ。涼香の母や、紗里の両親には慣れているが、それ以外となるとどうも緊張してしまう。


「あたしは他人の家でその人の親に会うこと自体初めてですね」


 涼音に至っては、涼香の親以外に会うことが無い。


「緊張しないの?」

「特にしませんね」

「凄い……」


 涼香がいればそれでいいと思っている節がある涼音にとって、他人の親に会うということは、割とどうでもよかったりするのだ。


「でもまあ、他人の家に行くこと事態には緊張はありますけどね」

「じゃあ半分仲間だあ!」


 涼音に抱き着こうとして、シートベルトに阻止される若菜であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る