車の中にて 9

「これから向かうのは、学校で涼香りょうかの誕生日を祝うために使う機材を貸してくれる人の家よ」

「ちなみにわたし達の、二個上の先輩でーす」


 菜々美ななみの言葉にここねが補足を入れる。


「私らが一年の時の三年の先輩かあ……」

「あたしは被ってませんね」


 被っていないのに、自分が行ってもいいのだろうかと疑問に思う。それを菜々美に聞くと、荷物運ぶのに手伝ってもらうだけだから心配しなくてもいいと言われた。


 運ぶのに人手が必要な物、やはり大きい物だろうか。


「車に入るんですか?」

「トランクに入ると思うわ。そこは確認済みよ」


 菜々美がそう言うのなら心配ないだろう。


 涼香のためにここまで動いてくれるとは。


「いつもありがとうございます。今回だって、先輩達受験で忙しいのに、こうやって力を貸してくれて」

「急にどうしたの⁉」


 唐突な感謝に、若菜わかなが目を見開く。


「わたし達、多分みんなかな、涼香ちゃんに助けられたの。だから、なにかお返ししたいって思ってるんだよ」


 ここねはなにか思い出すように答える。


「それは普段の行いでマイナスになってません?」


 涼香の普段を見ていたら、十分すぎる程返されているのだと思うが。そもそも、涼音すずねは涼香がここね達同級生を助けたということにピンと来ない。そかしそれを聞く気にならないし、涼香に話してもらおうとも思わない。


「私は普段から被害に遭っているけど、それでも返せない程の感謝があるのよ」

「私もまあ、感謝するところもあるからなあ」

「そうですか……」


 自分の知らない涼香の話をされているようで、涼音は面白くない。一番近くにいるはずなのに、知らないことがあるなんて――と考えるが、まあ今に始まったことでは無い。未だに涼音自身、涼香のことがいまいち解らなくなる時だってあるのだ。


「……ありがとうございます。ほんと、マジで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る