屋内型複合レジャー施設にて 17

 涼香りょうかの一投目は――。


 まず、ボールを投げようと腕を後ろに振る、案の定指からボールが滑ってしまう。そんな滑ったボールはどこへ向かうのかといえば、真後ろ、若菜わかなゆず紗里さりがいる場所だ。


 弧を描いて約四キロのボールが飛んでくるのだ、普段なら叫ぶのだが、今は状況的に叫ぶことができない。若菜と柚は歯を食いしばる。


 そして、そのボールが誰に向かったのか――。


(PKよりヤバい‼)


 柚だった。


 弧を描くようにゆっくり落下してくるボウリングのボール。下手に受けてしまうと骨が折れてしまう可能性がある。


 気をつけて、身体のクッションを使ってなんとか受け止める。


 どっと汗をかく。


 しかし安堵するにはまだ早い。涼香の第一投目、他のレーンでは、ちょうどピンが倒れたところだ。


 柚はそのまま涼香に渡さず、離れた位置からレーンに向かってボールを投げる。


 振り向きかけた涼香の脇をすり抜けたボールは、そのままピンを跳ね飛ばす。


「おおー! めっちゃ倒したじゃん!」


 すかさず若菜が拍手。


「不思議な力が目覚めてしまったのかしら?」


 涼香は自分の右手を見つめながら、今しがた感じた手の感覚に首を捻る。


 ボールを投げた感触は無かったのだが、時間差でボールが飛んでいき、ピンを跳ね飛ばした。


 物凄く筋力が強化されてしまい、ボールの重さを感じないようになったのか、それとも念動力辺りを使えるようになってしまったのか。


「涼香ちゃんは投げていたわよ?」


 紗里がそんな涼香に事実(嘘)を言う。


「委員長がそういうのならそうなのかしらね。なるほど、私の秘めたる力が覚醒してしまったようね」


 そして、残ったニピンを倒すためにボールを投げる。当然ガターだった。


「力が……消えている⁉」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る