屋内型複合レジャー施設にて 10

「さて、取ったわね!」


 そしてしばらくクレーンゲームを楽しんだ四人。


 涼音すずね涼香りょうかが持ちきれない景品を持ちながら、帰る時のことを考えてげんなりしていた。


 ちなみにあやはなにも取れず、夏美なつみは小さなぬいぐるみのキーホルダーを獲得していた。


「じゃあ解散?」


 そのまま帰ろうかと思ったが、ぬいぐるみを取ってもらったのだから、黙って帰る訳にはいかない。


「待ちなさい綾瀬あやせ彩」

「なんで」

「ボウリングがあるではないの。やらずに帰るという選択肢は無いわ!」

「却下です」


 遂に言い出した選択肢を、涼音は即切り捨てる。


「なんで? みんなでボウリングは楽しそうだと思うけど」


 なぜか分からない夏美は、純粋に疑問をぶつける。


「怪我人が出る」

「えぇ……」


 簡潔明瞭な涼音の答えに戸惑う夏美である。


 涼香にボウリングをさせてしまうと、ボウリングのボールが飛ぶし、涼香ごとストライクしてしまう。


 ボールが重たいため、この人数でやるのは危険なのだ。


「と言っても、大丈夫そうなんだよなぁ……」


 彩のまさかの言葉に、涼音は薄々察する。


「まさか……?」

「そのまさか」


 涼香と夏美から離れて、彩が涼音にスマホの画面を見せる。


 そこに表示されていたのは、涼香を抜いた三年生のグループ『水原みずはら涼香対策本部』というもの。


 ツッコみたいが、今はそれどころではない。


柏木かしわぎが水原とあんたを送ったと連絡。十中八九ボウリングをやりたがる水原による被害を防ぐため、誰かしら来ることになった」


 概要を彩が説明してくれた。


「相変わらず凄い連携ですね」

「色々あったからな……」


 どこか遠い目をする彩である。


「ということは、ボウリングできてしまうんですね」


 本当はこうならないよう、涼音が行き場所を決めておくべきだったが反省は後だ。


「ということ。でも――」


 そう言って彩が夏美を見る。


「絶対帰らないですね」

「あたし的にはまあ……帰りたいんだけど」


 夏美は帰りたがらないだろうし、涼香も返してくれそうにない。


 どうしたものかと二人が考えていると――。


「ヘイヘイヘーイ! 涼音ちゃんにまさかの綾瀬彩じゃん⁉」


 二人の後ろからやって来たのは、全身日焼けで黒くなった、テンション高めの少女だった。


「……うっざ」

「わあ、高松たかまつ先輩」


 高松ゆずは、首からかけたスポーツタオルで汗を拭きながらやって来た。半袖半ズボンから覗く腕や足は、筋肉で太く、引き締まっている。


「涼香がボウリングすると聞いてやって来たぜ」

「うざい近づくな」


 肩を組もうとやってくる柚から逃げる彩。


 サッカー部でキーパーをしている柚が来てくれたのなら心強い。しかし、それだでは心許ない気もする。


 扱うのはサッカーボールより遥かに重いボウリングのボールなのだ。


「ウチ以外にもいるし、最っ高に心強い助っ人も来てるから安心してくれい!」


 涼音の不安を払拭するように力強く言ってくれる柚。柚がそこまで言う相手は、涼音の中では一人しか知らない。


「なら安心ですね」


 もし来てくれたのが涼音の思い描いている人なら、夏美がいても心配無い。


「先輩達呼んできましょうか」

「本気で言ってんの?」


 彩はまだ心配しているが、本当に心配ないのだ。


「大丈夫です」


 力強く頷いた涼音は、早速、涼香と夏美を呼びに行――。


「来たわよ! あら、柚ではないの」

「わっ、こんにちは……」


 既にやって来ていた。

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