檜山家にて 8
「
毎度のことながら、突然訳の分からぬことを言い出す
今回は外へ行こう、というジェスチャーだろう。右親指を立て、クイっと外を指す。
「暑いから嫌でーす」
こちらもいつも通り、ゴロゴロしている涼音は、床に張り付き動く気が無い。
「いいではないの!」
「いいわけないじゃないですかあ‼」
引っペかそうとしてくる涼香と抵抗する涼音。家では割とよく見る光景だ。
「なんでこんな暑い日に出ようとするんですか! 補習終わったんですよね!」
補習は終わったし、お使いでもない。そして誰かに誘われたという訳でもない。
それなのになぜ涼香は外へ出ようとするのか。確か涼香自身も、暑い日は外に出たくないみたいなことを言っていたはずだ。
「飽きたのよ!」
「あたしに飽きたって言ってるんですか⁉」
「そうではないのよ!」
「じゃあいいじゃないですか!」
「涼音と真夏の思い出を作りたいの!」
「これも十分な思い出でーす! はい残念、離れてくださーい」
そう言って床を転がり、涼香から逃げようとする涼音。しかし逃がす涼香ではない。
涼音の転がる先に手を添える。すると転がった涼音が見事に、涼香の手の上に上がってしまう。
しまったと、反対に転がろうとする涼音であったが、反対側にも涼香は手を添えており、涼音は呆気なく涼香に捕まってしまった。
「確保よ!」
手を更に深く入れ、涼音を抱きしめて持ち上げようとする――のだが、体勢が悪く思うように持ち上げられない。
「残念ですね」
ふっと笑った涼音が、涼香の背に手を回して引き寄せる。
「涼音……離しなさい……‼」
「嫌でーす。出ていきたくないんで離しません」
じたばた暴れる涼香を涼音は脚も使って押さえつける。
絡まった糸のようになった二人、やがて互いに力尽き、その場でぐでーっと伸びてしまう。
「先輩……重いです……!」
「だったら……離してほしいわね……」
素直に涼音が離すと、涼香が隣に滑り落ちる。もう出かける体力も残っていない。二人は息を切らして笑い合うのだった。
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