移動中にて 5

「ほら見て、檜山ひやまさん、あの服可愛い」

「あっそ」

「あっちの店の服も可愛い」

「そうだねー」

「ここの服も可愛い」

「………………」

「あ、あそこの服も可愛い」

「服屋しかないの?」


 半歩前を歩いていた夏美なつみが足を止める。


 さっきから、服屋服屋、服屋しかない。


「なに、楽しいの? あたしには分からない!」


 ウィンドウショッピングという言葉がある。今しているこれが、そのウィンドウショッピングなのだろう。


「私は楽しいよ、服とか嫌いじゃないし」

「へぇ……」


 付き合うと言ったのだから、ここで帰る訳にはいかない。だが、服に興味の無い涼音すずねは帰りたかった。暇だし。


「檜山さんは楽しくないの?」

「うん」

「わあ即答……」


 こういう正直なところが涼音のいいところだと夏美は思う。


「じゃあ、檜山さんはどこなら楽しいの?」

「あたし? 家電量販店とか?」

「じゃあ行こう!」


 夏美も家電量販店は嫌いではない、それに隣には巨大な家電量販店がある。ならば向かうまで。


「いいの?」

「うん!」

「あっそ――って引っ張るな!」


 反射的に距離をとる。


「あれ」


 夏美の手が空を切る。悔しそうな目を向けてくるが、涼音は受け取らない。


 まさか避けられるとは。だがこれで終わる夏美ではない、先を歩く涼音に軽く突進。


「くっつくな!」


 夏美を押し離す涼音。


「うわーん、練習だからー」


 言葉の割には素直に離される夏美。


「なんの⁉」

「先輩にするための」

「あたしで練習すんな!」

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