水原家にて 21

「第一問。デデン‼」


 涼香りょうかの母の言葉に、涼香とあやは構える。


涼音すずねちゃんが小学生の時、教科書の端に描いていた絵はなにか」


 涼香と彩、それぞれ目の前に置かれている早押しボタン。


 問題を出された瞬間それを押した涼香。


『答えをどうぞ‼』


「それでは涼香、答えなさい」

「ジュゴンよ!」

「正解よ!」

「知るかぁっ‼」


 極限までツッコまずにいた彩が、一段落したことでツッコむ。


「まず! なにこのボタン⁉」


 そう言って彩は自分の前にある早押しボタンを押す。


『答えをどうぞ‼』


 べらんめえ口調の力強い声が流れる。


 この手のボタンで、まさかこんな音が鳴るとは思わない。


「お父さんが作ったのよ」

「えぇ……」


 人の親を出されるとなにも言えない。


 だから彩は他のことにツッコむ。


「あとなにこの問題! あたしに分かるわけないじゃない!」


 確かに、涼音の問題を出されると彩には答えることができない。それが小学生時代となれば尚更だ。


 それに答えたのは涼香の母だ。


「安心しなさい。ちゃんと彩ちゃん用の問題も準備しているわ」


「えぇ……」


 自分用の問題とはなんなのか。気になったが今はスルーした方がよさそうだ。


 そして最後に――。


「なんで早押しクイズやってんの⁉」


 涼香の母に、少し落ち着こうと紅茶を貰って小休止した後、突然始まった此度の早押しクイズ。


 涼香の奇行には慣れているが、まさか母親まで同じことをするのか。


 見た目だけでなく、そういうところまで似ていた。


「第二問。デデン‼」

「えぇ……」


 いきなり始まったので仕方なく構える。


夏美なつみちゃんが中学生の時、受験勉強と合わせてやっていたことはなにか」

「は……?」


 自分用の問題を用意していると言ったが、まさか夏美に関することだったとは思わない。


「いや……あたしも知らないんだけど……」

「あら、知らないの?」

「当たり前でしょ。なに? あんた知ってんの?」

「ええ、知ってるわ」


 予想外の言葉に彩は固まる。


 なんで自分は知らず、涼香が知っているのか。


 涼香の答えを聞いてみたい気持ちもあるが、答えを聞くのが怖い。


 自分の知らない夏美のことを言われるのは嫌だ。


『答えをどうぞ‼』


 そんな彩の気持ちを解っているのだろう。


 ボタンを押したが涼香は答えようとせずに彩の方を見る。


「答えてもいいかしら?」

「なんで……」

「私に言わせてみれば、どうしてあなたが知らないのかが不思議でならないわね」


 夏美の見た目は、中学生の時と高校に通っている今とでは大きく異なる。それは知っているのだが、彩にはなぜ夏美が変わったのか、変わるためになにをしたのか、それを知らない。


「あんたらと一緒にすんな……」

「ずいぶんな言われようね。これに関しては、綾瀬あやせ彩。あなたに責任があると思うわよ」

「はあ?」


 自分に責任があるとはどういうことなのか。


 涼香の言っていることの意味が分からないのいつものことだが、今日はそれに切れ味がついている。


「答えてもいいかしら?」

「………………」


 涼香の質問に答えられない彩に、涼香の母が助け舟を出す。


「問題を変えましょうか。涼香がなぜその答えを知っているのか、というものに」

「さあ考えなさい綾瀬彩!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る