水原家にて 20
――一方その頃。
「今頃、
「は? ちょっと待ておい」
鉛筆を置いて、身体を伸ばした
「離しなさい、脇腹は弱いのよ」
「触ってほしいの?」
「やめなさい、なにも話さないわよ」
「…………」
なにも言わずに彩は涼香を離す。
そして、さっさと説明しろと目で訴える。
「仕方がないわね、どこから話そうかしら……。そうね、あれは私が高校へ入学した――」
「そういうのいいから!」
まともに話す気の無い涼香の脇腹を掴む。
「ふぶっ、ちょっと
「あんたが悪いんでしょうが!」
夏美がどこかへ出かけるというのは知っていたが、まさか涼音と出かけているとは思いもしなかった。
「さっさと説明、あたしなにも聞いてないんだけど?」
「涼香、言う時がきたのよ」
涼香の母がそれっぽい雰囲気で涼香に話すよう促す。
やれやれと首を横に振った涼香である。
もう一回脇腹を触ると、頬を膨らまされた。
「私が言ったのよ、夏美に。明日涼音は暇だと」
涼香が夏美にそう言うと、早速夏美は涼音に連絡をした。
「でも
彩も、夏美から聞いたり、涼香から聞かされたりして、涼音が同級生には素っ気ないということを知っている。
「そうね、無視してたし夏美を覚えていなかったわね」
「はあ? あいつマジなんなの?」
だからといって夏美を忘れていいということではないのだが。そんな彩を手で制する涼香。
「大丈夫よ、ただの照れ隠しだから、知らないけど。……あなたみたいなものね」
普段はバカなはずなのに、時たまこうして、他人の心を見透かしたようなことを言う。
「別に照れ隠しなんてしてないから、本心だから」
「あら、それなら涼音に嫉妬でもしているのかしら?」
「はあ……? それも……違うから」
「あらそう。まあ、それ以上は踏み込まないわ」
照れ隠しや嫉妬はもちろんしているのだろうが、彩の言葉の通り、それ以外にもありそうだ。
だけどそこまでは踏み込まない。相談されれば別だが。
そんな涼香の気持ちが伝わったのだろう。俯いた彩は唇を噛み締める。
「……うっざ」
と、声を漏らした彩の前に、コトリと涼香の母が紅茶を置く。
「休憩しましょうか」
「はい……ありがとうございます」
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