鍋料理店にて 6

「みんな大丈夫だってー」


 鍋の底が見えてきた頃、スマホを確認したここねが言う。


「ほんとだ」


 そう言われて確認した若菜わかなも頷く。


「……本当にいいんですか?」


 自分から提案したにもかかわらず、大丈夫だと言われるとは思っていなかった。


「大丈夫だって、ほら」


 若菜が見せてくれた画面には大量の『行ける』があり、その数が三年生全てになるかと思う程であった。


「でも、人数が多すぎて教室じゃ難しいわよね?」


 ここでようやく、人語で話すことができるようになった菜々美ななみが懸念を伝える。


 一学年二百人はいるのだ。その生徒が一同に解する場所は、学校では体育館ぐらいしかないのだが、その体育館は一日中部活動で使っている。


「言えば体育館は空けてくれるだろうけど……」

「それなら、他の学年の子達も来ちゃうもんね」


 涼香りょうかの誕生日が学校全体を使ったイベントになってしまう。


「それは嫌ですね」


 涼香は芸能人ではないのだ。涼香すら知らない生徒達が来るのはいい気分では無い。


 噂では涼香の誕生日には祭壇を建ててお祝いしているなんてことを聞くが、自分達の見えない場所でだし、どうでもいい。


「どこか借りられるかな?」


 ここねの言う通り、教室がダメだならどこかスペースを借りるという手もあるのだが。


「でも二百人入る場所なんて、そうそう無いですよね?」


 仮にそんな大人数入る場所があっても、高校生には手が届かない。


「私らの同級生にお金持ちキャラいないしねえ」


 お嬢様学校であれば希望はあったのだが、ただの女子校だ。少なくとも若菜達三年生にはお金持ちの生徒はいない。


涼音すずねちゃんの学年は?」

「知りません。例えいたとしても嫌です」

「わあ即答」


 そう言いながら若菜はバスケ部の後輩との話を思い出す。


「……でも、聞いたことあるような?」


 確かそのような話を聞いた気がする。もう一度確認すれば分かるだろうか?


「そですか」


 しかし涼音の素っ気無い態度を見て、後輩に聞くのをやめようと思った若菜であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る