水原家にて 12
「先に行かれた……」
髪の毛を乾かしに行こうと思っていたのに、逃げた涼香に先を越された。
「お母さんが乾かしてあげましょうか?」
「いや、なんで先輩みたいなこと言ってんの?」
「親子だからよ」
そもそもドライヤーは一つしかないため、涼音の髪の毛を乾かすことはできない。
「ほんと、親子って感じ。先輩も歳とったらそうなるのかな?」
口を尖らせた涼音は、目の前に座る、涼香とよく似た母親を見る。
「あの子は私程賢くないわ」
「……けど言動は似てるんだよなあ」
母の方がまだ言っていることは分かるが、ただそれだけだ。
涼音はスマホを見ながら話を変える。
「明日は休みって言ってたけど、一日中先輩見てくれるの?」
もしそうなら、涼音は個人的な予定を入れたかった。
「ええ、とりあえず宿題は終えさすわ。迷惑かけたわね」
「いや別に、どうにかなるだろうって思ってたから」
夏休みの宿題のこともそうだが、涼香の進路もどうにかなると思っていた。
だから涼香が受験生にもかかわらず、いつも通り緩い日常を送ることができたのだ。
「それならあたし、明日予定あるから。ちょっと出かけてくる」
そう言ってスマホを伏せる。
「熱中症には気をつけて。お母さんに言っておいてあげましょうか?」
少し笑って言うその表情はやはり涼香とは違う。
親が子に見せる優しい表情。
「それぐらい自分で言うよ」
涼香に向ける笑みとは、また少し違った笑みを向ける涼音であった。
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