水原家の台所にて 4

「そして切った物がこちらにあります」


 どこからともなくカット済みの野菜を取り出した涼香りょうか


 いったいどこに隠していたのだろう。


「えぇ……」


 そうくるかと、涼音すずねは呆れた声を出す。


「昨日夜の内に切っておいたのよ」


 誇らしげにそう語る涼香。


 夜ということは寝静まった後だろう。


「怪我しませんでした?」

「この通りよ」


 心配する涼音に傷一つない指を見せる涼香。


「ならよかったです」

「ええ。では巻きでいくわよ、三分しかないのだから!」


 もうこの後の展開を予測した涼音は鶏肉を冷蔵庫へ戻す。


「これらを鍋に入れて炒めるわ。そして炒めたものがこちらに、ついでにお肉も入れてルウも入れたわ!」


 よっこらせと、どこからともなくシチューの入った圧力鍋を取りだした。


「……」

「三分クッキングよ」

「下準備凝ってますね」


 鍋を火にかけてシチューを温める。


 具材には既に火が通っているため、軽く沸かしたら完成だ。


「やってみたかったのよ。こうして料理するのを」

「分からないこともないですけどね」


 三分は経ってしまったが、グツグツと煮えてきたのを確認すると、涼香は容器にシチューをよそう。


 いくら冷房が効いているとはいえ、やはり目の前で湯気が立つシチューを見ると汗ばんでくる。


「美味しそうね」


 汗を拭いながら涼香が言う。


「ルウ使ってますしね。味は美味しいでしょ」


 手でパタパタ自分を扇ぎながら涼音が言う。


 すると涼香は、ねえ知ってるかしら? とでも言いたげな顔で言う。


「隠し味を入れているのよ」

「どうせ愛情ですよね?」


 しかし涼音は即答。


「どうして分かったの⁉」

「十分すぎる程貰ってますから」


 そう言って、お皿を持ってテーブルへ向かう涼音であった。

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