夏休み編 8月

夏休みにて 16

 珍しく本を読んでいる涼香りょうかだったが、涼音すずねは特に気にせずスマホで動画を見ていた。


「ねえ涼音、なにか言ってくれてもいいではないの?」


 本から顔を上げた涼香が、ベッドに寝転ぶ涼音に言う。


「なにを言えばいいんですか?」


 動画を停止して涼香を見る。


「なにを読んでいるのか気になるでしょう?」

「いえ別に。どうせ小説と見せかけてアルバムでも見てるんでしょ?」

「その手があったわ……⁉」

「えぇ……」


 どうやら違うらしい。


「気になるでしょう?」

「いえ別に」


 しかしそれでも、涼音にとってはどうでもよかった。


「気になると言いなさい!」

「強引すぎません?」


 どうしても聞いて欲しいらしく、涼音はため息をついた後、仕方な~く聞いてあげた。


「なに読んでるんですかー?」


 すると涼香はよくぞ聞いてくれたわね! という表情で話し出す。


「小説よ!」

「でしょうね」

「どうして分かったの⁉」


 目を見開く涼香。


「なんですかボケですか? あたしにどんな返答を求めてるんですか?」


 困り果てた涼音の言葉に、涼香は微笑んで言う。


「ただ涼音の声が聴きたいだけよ」

「なんですかそれ……」


 ジトっとした目で涼香を見る涼音であった。

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