学校終わりにて
ある日の二年生の教室。
昇降口で手早く靴を履き替えて、駆け足で駅へ向かう。
涼音が急いでいるのには理由があった。少し前、涼香とショッピングモールに来ていたときに発見した、平日十六時から販売開始の高校生限定、一日十五食のケーキを買うためだ。
終礼が終わる時間は十五時四十分頃、ショッピングモールは涼音の通う高校から電車で四駅だが、学校から駅までは十分以上歩かないといけないし、電車の時間もある。幸いにも終礼直後に走ればギリギリ乗れる電車があり、それに乗れば丁度十六時にショッピングモールの最寄り駅に到着する。
程なくしてやって来た電車に涼音は乗り込む。
客もまばらな車内、適当に空いている席に座った涼音。
「うー疲れた、今日は残ってるかなあ……」
ケーキを見に行くのは一回だけのつもりだったのだ。しかし、幸か不幸か、その一回見に行った時、涼音の目の前でケーキが売り切れてしまったのだ。
「うわあぁ……‼ 希望見えちゃったよ」
既に売り切れていたのだったら諦めもつく、しかし目の前で売り切れたとなると、もしかすると余っているうちに間に合うのではないかと希望を抱いてしまう。そんなこんなで今に至るのだ。
電車に揺られること約十分ショッピングモールの最寄り駅に到着する。駅からショッピングモールまでは直結しているが、ケーキ店自体は駅から離れた位置にある、そして時刻は十六時、ケーキの販売が開始される時間だ。他校の、恐らくここが最寄りの高校の生徒だろう、その姿がちらほらと見える。
ケーキ店にやって来た涼音の前には、他校の女子やカップルの姿が列を作っていた。涼音はその最後尾に並ぶと人数を数える。
涼音を入れて八人がケーキ店に並んでいた、残りの限定ケーキの数を確認すると涼音の番まで残る量だったが安心はできない。
「お待たせー」
「ありがとー、先に並んでくれて」
涼音の前に二人増えた。
以前はこれで涼音が買う前に売り切れたのだ。
イラッと来る気持ちを抑えた涼音、まだケーキは残っている。
その後も二人増えてやっと涼音の番だ、気が気でなかったが残りは三つ、涼香の分と自分のぶんは確保できそうだ。
「申し訳ございません。お一人様一つまでとなっております」
「あー……じゃあ一つとこのフルーツタルトを一つください」
涼音は学生証を見せて限定ケーキとフルーツタルトを購入した、自分の分は無いけど涼香の分は確保できたから良しとしよう。
涼音はスマホを取り出すと涼香にメッセージを送る。
『用事がおわったんで家に行っていいですか?』
すぐ返信が来ないためまだ家に帰っていないらしい、まさか今日に限って友達と遊ぶなんてことはないだろう。少しばかり不安はあるが仕方がない。涼音はスマホをしまうと軽い足取りで駅へと向かう。
駅で電車を待っている最中、涼音のスマホから音が鳴る、涼香からの返信だ。
『待ってるわ、気をつけてね』
微笑んだ涼音はスタンプで返信して再びスマホをしまう、電車が来るまであと数分。
(先輩驚いてくれるかな)
これでやっと涼香と帰ることができる、涼香にいらぬ心配をかけなくて済む。
ホームにアナウンスが響く。あと少しで涼香に会える、涼音ははやる気持ちを抑えて、涼香の言う通り、気をつけて帰ることにするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます