3000文字の物語達。

三愛紫月

あんなに好きだったのに……。

文字を書くのが好きだった。


文章を捻り出すのが好きだった。


物語を紡ぐのが好きだった。


何で、過去形で話すのかって……。


それは、今、とてつもなく大嫌いになったからだ。


僕は、先輩に頼まれてラブレターを執筆する事になった。


先輩から、頼まれた条件は一つ。


「ラブソングみたいなのがいい……」


ラブソング?


音楽に興味のなかった僕は、たくさんの曲を聞き続けた。


そして、ラブソングみたいなラブレターを一週間で書き上げて、先輩に渡した。


睡眠時間は、毎日二時間で……。


必死で、作り上げたのに……。


「おい!お前なーー。駄文書いてんじゃねーーよ。ふざけんなよ!」


僕は、先輩に殴られる。


駄文……。


「きたねーー字で。読めなかっただろうが……」


汚い字……。


「才能ねーーくせに偉そうにすんな」


才能ない……。


僕は、先輩から浴びせられる言葉に書く事をやめた。


「大丈夫か?理生」


僕の名前は、結月理生ゆづきりお


僕の名前を呼んだのは、幼馴染みの立川雅隆たちかわまさたか


僕は、まさちゃんと呼んでいる。


「まさちゃん。気にしないで」


「気にしないでって、理生……。あれから、鉛筆持つと震えるってせっちゃんが言ってたぞ」


「また、よけいな事を……」


せっちゃんとは、水野星蘭みずのせいら


幼馴染みで、僕の初恋相手だ。


僕達は、保育所からの幼馴染みで……。


僕が、文章や物語を好きになったのはせっちゃんのお陰だった。


あれは、小学二年生の頃。


せっちゃんは、僕がノートにさらさらと書いていた宝探しを題材にした物語に夢中になってくれていた。


「凄いねーー。結月は、才能あるよ!そういうのになれる。絶対なるべきだよ」


せっちゃんは、僕のお話を読みながらニコニコ笑って話してくれる。


せっちゃんに言われると僕は慣れる気がしていた。


中学二年で、父が古いパソコンを譲ってくれると僕は、それに物語を書く事にした。


「理生。こういうのに載せてみたらどうだ?」


父は、僕が真剣なのを理解してくれたようで、web小説サイトに投稿したらどうかと言ってくれる。


僕は、投稿サイトにパソコンを使って投稿すると、二ヶ月でコメントやいいねをいただくようになったのだ!


僕は、それが嬉しくてずっと調子に乗っていたのがわかった。


本当は、才能なんてなくて……。


才能があるフリをしていただけなんだって……。


それなのに、高校に入ってからはラブレターの代筆まで頼まれてしまって……。


それが、またかなりの人気になってしまったのだ。


そのせいで、よけいに僕は調子に乗ってしまっていた。


「理生。大丈夫か?」


まさちゃんは、僕にハンカチを差し出してくる。


「理生。やめるなよ。俺は、理生の書く物語好きだよ」


「ありがとう」


僕は笑って、まさちゃんからハンカチを受け取った。


「まさちゃん、僕ね」


「うん」


まさちゃんは、僕の顔を覗き込む。


「物書く人間だからわかるんだよ。文章から、人の気持ちが……」


「それ、前も理生が話してくれたよな!覚えてるよ」


「そっか……。一昨日、小説投稿サイトに感想書いてくれた人がいたんだけどさ」


「うん」


「いい文章だったんだよ。でもね、僕はその人が面白くないと思ってるのに気づいちゃったんだよ」


僕の言葉に、まさちゃんは驚いた顔をしてる。


「凄くいい感想を書いてくれてたのにさ……。その裏にある気持ちを受け取っちゃうなんてよくないよね」


「理生……」


「先輩が言ってくれて、スッキリした。僕には、才能がないんだよ」


まさちゃんは、「そんな事ない」と言ってくれた。


「ごめん。帰るよ」


僕は、まさちゃんの真っ直ぐな目を見ていられなくて立ち上がる。


僕は、向いてない事に、長い間時間を使ってきたのがわかった。


才能がないって、早く知れてよかったと思う。


もう、十分だよ!


本当は、物書きになってご飯を食べられるようになりたかった。


「結月」


家の前につくと、せっちゃんが立っていた。


「何か用?」


「結月を理解してくれない人に結月の作品を読んでもらわなくてもいいよね?」


「そんな事、言ってたら、お金稼げないだろう?」


僕の言葉にせっちゃんは怒る。


「たった、一人や二人に言われたからって諦めないでよ!結月は、才能あるよ!だから、諦めちゃ駄目。勿体ないよ。せっかく、書いてきたのに」


「せっちゃん、ありがとう」


「ありがとうじゃないよ!結月」


お礼を言って、家に入ろうとする腕をせっちゃんが引っ張ってきた。


「何で?書けなくなったの……。先輩に言われたから?あれは、結月は関係ないよね?振られたのは、結月のラブレターのせいじゃないよ!」


僕は、せっちゃんの言葉に泣きそうになるのを堪えている。


「駄文だったんだよ。ラブソングみたいにうまく書けなかったからよくなかったんだ。文字も綺麗じゃなかったわけで……。もっと、うまく作れていたら……。先輩は、振られなかったんだよ」


「結月の文章は、駄文なんかじゃない!世界中のみんなが駄文だって言ったって私が違うって言ったら違うの!!」


僕の代わりに、せっちゃんが泣き出してしまった。


「せっちゃん、泣かないでよ……」


僕は、せっちゃんを見ながら困ってしまう。


「駄文なんて言わないで!向いてないなんて言わないで!書けないなんて言わないで」


せっちゃんは、泣きながら怒っていて、僕の腕をぐいぐいと引っ張ってくる。


「やっぱり、こうなったか……」


僕は、その声がした方を見る。


そこにいたのは、まさちゃんだった。


「まさちゃん」


「せっちゃんが、理生の家に行くって言うから来たんだよ。そしたら、やっぱりこうなってた。ハハハ」


まさちゃんは笑って言った。


「せっちゃん、そろそろ言った方がいいんじゃないか?じゃないと、理生は一生書けないぞ」


せっちゃんは、まさちゃんの言葉に僕を見つめる。


「あのね、あのね」


涙を拭いながら、せっちゃんは必死で話す。


時々、しゃっくりがヒャッて出るけど……。


「あのね、あのね」


そんな事も気にせずに一生懸命話そうとする。


「何?せっちゃん」


「わた、私」


「うん」


「結月が……好き」


「え?」


僕は、せっちゃんの言葉に固まっていた。


「だから……。結月が好きなの!」


「まさちゃんが好きなんじゃ……」


「何で、雅隆よ!雅隆は、赤ちゃんの時からずっと友達だから姉弟みたいなもんだよ」


せっちゃんの涙は、いつの間にか止まっている。


「結月が書いた、物語を好きになったの。それで、いつの間にか結月も好きになってたんだよ。で、雅隆によく相談してたんだけど……。勇気がなかったから……。なかなか言えなかった」


せっちゃんの言葉を聞いていたまさちゃんが、僕に言う。


「理生!男なら、ビシッと決めろ!じゃあな」


まさちゃんは、僕を指差して帰って行く。

僕も、まさちゃんにせっちゃんの事をよく相談していた。


「せっちゃん。僕も、ずっと好きなんだよ」


「え?」


「せっちゃんは、僕の初恋なんだ」


せっちゃんは、僕を見つめてニッコリと微笑む。


「結月、大好き」


せっちゃんは、僕をギュッーと抱き締めてくれた。


僕とせっちゃんは、付き合う事になった。


あれから、数週間が過ぎ。


「理生、これ。すっごく、すっごく最高」


せっちゃんは、僕のWeb小説を見て喜んでくれている。


僕は、また物語を書けるようになっていた。


例え、世界中の誰かに才能がないと否定されたとしても……。


僕のすぐ隣にいるせっちゃんが認めてくれる。


「理生。続き読みたいから、頑張れ」


まさちゃんが、応援してくれる。


それだけで、十分だった!


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