終末世界
瑠璃
第1話
何か落ちている。
動いた。ああウンディーネだ。砂漠の真ん中に落ちてきてしまったんだ。かわいそうに、もう戻れないね、相当弱っている。この世界はもうすぐ終わるのに。
瞳だけが淡いブルーのウンディーネは自分が何者かを忘れている。ひどく喉が乾くこの場所はとりあえず自分のいる場所ではないから、彼女は歩き始めた。埃っぽい砂を含んだ風が少女のスカートをもて遊ぶ。さくさくさくさく。あつい砂を踏みしめて前を見据えて進んでいく。喉が乾いた。あっちだ、と本能が教えてくれる。水の妖精なのだから水の在処が分かるのだが、もちろん少女はそんなことは忘れている。灼熱の中にみつけたオアシスの水は体温よりも暖かくて青い見た目にだまされた気がしたが、それでも少し元気になった。さくさくさくずるっ。さくさく。坂道になって砂に足がとられる。転んだ拍子に砂埃が入ってきて乾いた咳がでた。はじめて発した音はあっと言う間に砂の間に埋もれていった。
さく、さく、さく、さく。もうどれくらい歩いたか分からない。目が太陽の明るさに耐えきれなくて、かすんできた。ふと見ると足下の少し先が揺らいでいる。それを追って目線をあげると、ずっと遠くに城がみえた。丸っこい塔が三つほど並んだ真っ白の美しい城だ。少女の足取りが少し軽くなった。けれどしばらくして少女はまた立ち止まる。城がいつまで経っても近くなるように思えない。自分が進んだ分だけ城が後退しているように思える。城へと続く陽炎の道は永遠に足の少し先にある。風が強く吹いた。少女がたどり着けなかった道に人が立っている。
ウンディーネ、おまえはこの道には乗れないよ。招待されていないから。砂漠の城はいつだって招待客はシルフだけ。
歌うように言ったあとまた強く風が吹いた。もうその道には誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます