#10 部活設立に向けて



 久我山さんと別れて自宅に帰り、いつもの様に夕飯の用意をしていると、ミイナ先輩からスマホに通話が掛かって来た。



『明日、部活申請のことで相談あるから、1年の教室行くね』


『毎回来てもらうのは悪いので、僕が2年の教室に行きますよ』


『うーん、こっちの教室で仲良くしてるの見られると、アラタに迷惑かかりそうだから』


 また、気になる言い方してる。

 ミイナ先輩は可愛くてモテるから、まだ入学したばかりの1年が仲良くしてたら「生意気だ」と敵意を向けられないか心配してくれてるのだろうか。


 まだ料理の途中だったので、スピーカーに切り替えて会話を続ける。



『分かりました。 ならドコか別の場所で落ち合いましょうか? この前の中庭のベンチとかどうです?』


『そうだね!じゃあ、お昼に中庭のところね!』


『それと、僕からも報告あるんですが、総務委員会の書記になりました。 一応執行部の末席になりますので、邦画研究部立上の際には速やかに認可降りるように働きかけることが出来そうです』


『えええ!?マジで!? まだ入学したばかりなのになんでそんなことになってるの???』


『立候補したからですよ。 あと、総務委員長の久我山さんとも小学校の先輩後輩だったことが発覚しまして、直接久我山さんに相談することも可能です』


『は?久我山?久我山って久我山リョウコ?去年生徒会副会長だった女?』


 久我山さんの名前出した途端、ミイナ先輩の機嫌が悪くなった。

 何か因縁でもあるのだろうか。



『その久我山さんですね。 今日一緒に帰ろうって誘われて、さっきまでずっとお喋りしてて去年副会長だったことを教えて貰いました』


『あの腹黒女!アラタにまで手ぇ出してんのかよ!死ねよ!』


 滅茶苦茶荒ぶってる。

 激おこじゃないか。


『お二人の間に何があったのかは知りませんが、落ち着いて下さい。 ミイナ先輩、言葉遣いが酷くなってますよ』


『アラヤダ、ワタクシトシタコトガ。オホホホホ』


 冗談を言う余裕はあるようだ。

 ホッとした。



 その後も料理をしながらミイナ先輩との通話を続けた。


 中学時代、家に居る時間は『何時までに夕飯の準備を終わらせて、婆ちゃんに食事させてる間に洗濯機廻して、お風呂も洗って、婆ちゃんをお風呂入れて、それから自分も食事して、宿題も少し残ってたからそれやって、でも先に朝ご飯の準備と洗い物もやっておかないと明日面倒になるし―――』と分刻みであれこれ忙しく動き回ってて、毎日が戦場の様な忙しさだった。


 それに、僕はスマホを持つようになったのがつい最近なので、こんな風に家に帰ってからも友達とお喋りをするという経験が無かった。

 でも、以前の僕なら『時間の無駄遣い』と思える様なお喋りタイムは、ついつい時間が経つのを忘れてしまう程、楽しかった。


 お喋りが楽しいのは、きっとミイナ先輩のキャラや人懐っこい人柄とかもあるんだろうけど、ミイナ先輩の遠慮ない毒舌には笑いが止まらなかった。




 ◇




 翌日のお昼休憩。


 お弁当を持って中庭に向かうと既にミイナ先輩が来てて、ベンチに座って弁当を抱えて待っていてくれた。



「お待たせしてすみません」


「大丈夫、私もいま来たとこだし! それじゃあご飯食べながら打合せしよう!」


「了解です」


 ミイナ先輩からの相談内容は、総務委員会へ提出する為の申請書の記載に関してで、部長・副部長などの役員、活動内容の概要、必要予算の見積もり、活動時間(曜日など)等を決めて記入する必要があった。



「部長は私がやるから、アラタは副部長と会計ね」


「1年なのに副部長しても良いんですか?」


「いいんじゃない?他に部員居ないし」


「それもそうですね。 会計に関しては、部費の収支を管理すれば良いんですよね。 何か部に関する買い物をする時は必ず事前に相談して下さいね。 あと、買い物した時も必ずレシートか領収書貰って僕に渡して下さい」


「おっけー! やっぱ、アラタは頼りになるわ」ふふふ


 ミイナ先輩とはまだ付き合いが短いのに、こんな風に評価されて頼って貰えるのは、やっぱり嬉しい。


「活動内容は、邦画の視聴ってトコかな」


「それだけだと活動内容としては薄いので、感想会とか短編動画の製作とかも書いたらどうです?」


「アラタ、動画作りたいの?」


「いえ、作りたい訳じゃないですけど、認可されやすいように活動内容に積極性を持たせようと思いまして」


「へー、難しいこと考えるのね。じゃあ、感想会と短編動画の製作ってのも書くね」


「あとは、必要予算に関しては目安が分からないので、総務委員会の方で確認しておきますね」


「うん、任せた! あとは、活動する曜日と時間かぁ。 アラタは何曜日なら大丈夫?」


「うーん、基本的に総務委員会の仕事は毎日あるんですけど、書記は融通利くんですよね。 逆に部活の方に合わせられると思います」


「そっか。 じゃあ、週2くらいかな?火曜と木曜とか」


「了解です。 何か不都合が出てくれば、後から変更しても良さそうですし、最初はそれで行きましょうか」


「うん、そうだね!」


「あとは、部室の確保ですかね。 空きになってる部屋を調べておきますんで、その中から選んでおいて、そこを割り当てて貰う様にしましょうか」


「そんなこと出来るの?」


「多分ですけど。 部室の割り当てがどんな基準で決められてるのかは分かりませんが、コッチで選んでおいて、表向きは総務委員会から指定した形にすれば問題ないんじゃないですか?」


「なるほどねぇ。 アラタって真面目で実直っぽいキャラなのに、計算高いトコあるのね。 案外腹黒い?久我山菌に感染した?」


「どうなんでしょうか」


「でも早く自分たちの部室が欲しいね! そしたらお昼ご飯も毎日部室で一緒に食べられるよ!」


「部室欲しい理由がソレなんですか?」


「違うよ! いま考えてるのは、部室にスクリーンとプロジェクター設置して、シアタールームにしたいんだよね」


「なるほど。それは面白そうですね」


「でしょ? でも、色々と設備とか備品揃えなくちゃいけないんだよねぇ」


「スクリーンとプロジェクターだけじゃなくて、PCとか遮光カーテンとかも必要ですね」


「あと、ゆったり出来るソファーも欲しい!二人で座れるヤツね!」


「僕は家で映画見る時は寝転がって見たい派なので、ソファーよりも畳のが」


「ふふふ、夢が広がるね!」


「ええ、こういう相談は楽しいです」


「問題は予算かぁ。 アラタ、総務委員会の執行部権限で予算多めにふんだくれないの?」


「どうなんでしょ? 今日の放課後にでも委員会で限度額を相談してみましょうか」


「うん、お願い。 最悪、腹黒女の弱みでも握って脅すってのも」


「いや、むしろそんなことしたら返り打ちにされそうですよ。久我山さん、かなり有能な方の様だし。 予算よりもまずは認可貰うことを優先しましょうよ」


「確かにそうだね。 あの腹黒女の弱みは、その後ね」


「弱み握るのは決定事項なんですね」


「あの女が悔しがる顔、ちょー見たいじゃん!」


「いいえ。僕は久我山さんとは仲良くさせて頂いてるので、そんなことは全く思っていないですよ。 ミイナ先輩は、どうしてそんなにも久我山さんのことを目の敵にしてるんですか?」


「うーん、生理的に合わないから?」


「それで何か揉めたことがあるとかですか?」


「表立って揉めたことがある訳じゃないけど、ああゆう女は嫌いなのよね」


「僕にはよく分かりませんね。 久我山さん、いいひとですよ? 昨日の総務委員会でも僕のこと褒めてくれて励ましてくれてたし」


「そーゆーとこ!男を上手く煽てて掌で転がしてるじゃん!あの女はそーゆーのが上手いの!あの女が関わると男はみんなホイホイ言うこと聞いちゃって、そーゆーのがムカつくの!」


 ミイナ先輩だって、相当あざとい部類の女性だと思うんだけど。

 これは多分、モテる女同士の同族嫌悪とでも言うべきなのだろうか。

 ミイナ先輩、結構プライド高そうだし、要は僻んでいるということかな。



「ミイナ先輩だって、男の僕にグイグイ距離感可笑しいじゃないですか。人の事言えないんじゃないですか?」


「私とアラタはいいの!私のはアラタ限定だし!」




 ミイナ先輩も久我山さんも、僕にとってはお喋りしてて楽しい女性で、入学してまだ日が浅いのにこの二人の先輩に『友達』と言って懇意にして貰えるようになったのは、運が良かったと思う。


 特にミイナ先輩とは、偶然のトラブル遭遇が切っ掛けで知り合いになったのに、今や二人で部活を立ち上げることになるなんて、中学では考えられない様な出来事の連続だ。 



 僕の高校生活は、期待してた以上に充実して楽しい日々だけど、まだ始まったばかりだ。




__________


第1章、お終い。

次回、第2章スタート。

(本日12時に登場キャラ紹介挟みます)





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