保土ケ谷奇談

ぐり吉たま吉

第1話 現代その1


ええ、そりゃ不気味で怖いですよ。

でもね、見たくなくても見えちゃうし、ついてくるんですよ…。


いつもじゃ無いんですが、ふと周りを何気なく見るといるんです。


いや、いるって言うより、そこにあるって言った方があてはまりますかね?




私は趣味の域が抜けない、素人の小説家である。


素人の小説家って言っても、最近私の拙い作品を熱心に読んでくれる読者様も増えてきた…。


ダメ出しやお題を出して、次はこんな感じのが読みたいと言ってくれる。


大変、有り難い。


その読者様達の為にも、面白いものを書きたいのだが、中々難しい。


そこでまた、お題を募るとホラー物が読みたいと、ひとりの女性読者より連絡があった。


不慣れなホラー物だが、読者様のニーズには何とか応えたいと、色々考えてみたもののアイデアが浮かばない。


ネットで拾った話を参考にしても、ただのパクリになるようで、それならばとリアルな体験をされた方の話を聞こうと自分のブログで募集をし、友人知人に頼み込んでやっと話が聞ける段取りがついたのだ。




その人の指定したコーヒーショップで待ち合わせをし、自己紹介を済ませ、会話の録音の許可をとり、話を聞くことになる。



小説の参考になるかどうかはわかりませんが…そう言って、その人は話し始めた…。



最初に見た…いえ、感じたのはまだ私が独身の頃、独り暮らしをしていた、磐田市のアパートの部屋の中でした。


仕事から疲れて戻り、エレベーターから部屋に入ると何故かいつもと違う違和感があったんです。


何となく視線を感じるっていうか、私は誰かが、潜んでいるのかと部屋中の灯りをつけました。


明るくなった部屋の中には私以外誰もいません。


でもまだ、誰かに見られているような気がしてその時につき合っていた彼氏に電話したんです。


近くに住む彼氏は心配し、すぐに来てくれました。


一緒にベランダにクローゼットや洋服ダンス、点検口から天井裏まで見ましたが、誰もいませんでした。


彼は気のせいだよ、疲れているから余計なこと考えて、ありもしない、いもしないものを感じた気になるんだよ。


そう言い、また後で来るから安心して早くおやすみねと帰って行きました。


私は仕事帰りに買って来た、コンビニのサンドイッチとコーンスープで夕食をと思いましたが、食欲が無く、シャワーを浴びて寝てしまおうと、立ち上がりました。


すると、窓の外…少し開いていたルーバーの小窓から一瞬なんですが、目が私を覗いていたんです。


ハッとして、もう一度ルーバーに近づき確認しましたが誰もいなく、目も消えています。


外から誰かが覗いていたって?


あり得ません…。


だって私の部屋は五階でルーバーの外は壁で人が立つことも、ましてやブル下がり覗くなんて出来ませんので…。


やはり、怖がっているから…気のせいねとシャワーを浴びました。


化粧を落とし、髪を洗っているとまた、視線を感じます。


もう怖くて早くシャンプーを洗い流して出ようと、きつく目を瞑りながら、流し終え、濡れた髪にタオルを当て薄っすらと目を開けると、湯気で曇った鏡に指でなぞったような文字がありました。


そこにはただ、みてるだけ…と、書かれていました。


私は恐怖で裸のまま気を失い、しばらくして来た彼氏に抱きかかえられ、べットに入ったと覚えています。


そして、すぐさまアパートを引き払い、彼のアパートへ引っ越しました。


彼のアパートは1DKでふたりで住むには狭く、彼の転勤に合わせ、横浜のマンションへ引っ越ししてきました。


そうです。


その時の彼が私の夫になりました。


横浜の新しいマンションに移ってからは、何事も無く、あの「目」の事は忘れかけていました。


いえ、子供は出来ませんでした。


私の仕事は、横浜へ引っ越す際に退社し、横浜では、ファミレスでアルバイトをしていました。


私のアルバイトが終えると彼を駅まで迎えに行き、ふたりで買い物をして、坂を歩きマンションまで帰るのが日課でした。


彼は優しく私は幸せでした。


そんなある日、彼と一緒に坂を登り、自宅のマンションが見えた時、また、あの視線を感じたんです。


見渡すと、薄暗い歩道の側溝から目が見えたんです。


ちょうど目の下のライン…鼻から上だけの頭までが側溝のコンクリートに乗っているように…。


私は声も出せず、その目を見つめていました。


彼も私の異変に気づいて、視線の先を見たんですが、何事もないように私の手を引き、自宅まで戻りました。


自宅に戻り、私がまた、目を見たと言っても彼は信じず、笑っていました。


ただ、彼は笑顔の中で、目だけは笑っていなかったような気がしました。


その夜、ふたりでベッドで寝ていたんですが、夜中、気づくと彼が私を見下ろしていました。


どうしたの?と、訊いても、何やら、ブツブツ言っています。


「やっと見つけた…見てるだけ、見てるだけだから、今はね…」


彼はそう言っていたんです。


そして、また、彼はベッドに横たわり寝てしまいました。


翌朝、何事も無かった様に、笑顔で手を振り会社へ行きました。


そして、彼が会社の屋上から、飛び下りたと連絡先受けたのは、その日の夕刻でした。


マンションを引っ越し、今のアパートに暮らしても、たまに「目」は現れます。


見てるだけで私には危害はないみいです。


そりゃ不気味で怖いですよ。

でもね、見たくなくても見えちゃうし、ついてくるんですよ…。


いつもじゃないんですが、ふと周りを何気なく見るといるんです。


いや、いるって言うより、そこにあるって言った方があてはまりますかね?


今も見ますかって?


現在も見ますよ。


あぁ、今、今ここにはいません。


良かったですね。


いたら、あなたも取り憑かれるかもしれませんもんね…私の夫の様にね…。


私の話は以上です。


参考になりましたか?


私もこんな嘘みたいな話、信じて聞いて貰えて良かったです。


○○さんに、よろしくお伝え下さい。

 


彼女を紹介してくれた私の知人の名前を言って、彼女はコーヒーショップから立ち去った。


私はこれがきっかけとなり、この一連の話にのめり込んで行く事となった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る