第2話 新しい家族
目を開けると、知らない部屋の天井が見える。
木の板が張り巡らされている。見たこともない構造の家だ。
「あ、目が覚めたのね。タクト」
タクトって誰だ? あ、俺のことか。
若い女性が寝ている俺の顔を覗き込んだ。
亜麻色の巻き髪がかわいい。ブラウンの大きな瞳を輝かせて、俺を抱き上げた。
「かわいいあたしの子。大好きよー!」
なるほど。俺は赤ん坊で、この女性は俺の母親らしい。
女性は俺の頬に、顔をすりつけてくる。
うん。甘い匂いだ。すげえ落ち着く……
「そろそろごはんの時間ね」
おいおい。これってまさか……
女性はドレスのボタンを外して、胸を出した。
ぽろんと、豊満なおっぱいが飛び出す。
「さあ、召し上がれー」
女性は乳首を俺の口に押し当てる。
そうだ。俺は赤ん坊なんだから、母乳を飲むのは当たり前だ。むしろ飲まないと死んでしまう。
だけど、中身は二十七歳の男だから、おっぱいを吸うのはかなり恥ずかしい……
「ばぶばぶぶぶあああ」
これも生きるためだ。
俺はピンクの乳首にしゃぶりついた。温かい母乳が俺の口の中に流れ込んでいる。
甘ったるい味がする。おいしい。これならどんどん飲めそうだ。
「エリシア、今帰ったぞ!」
「はーい! ハンス! 開けるわ!」
俺の母親の名前はエリシアと言うらしい。で、父親はハンスと言うそうだ。
エリシアは俺を抱きかかえたまま、玄関へ向かう。
ドアの鍵を開けて、ハンスを中に入れた。
「タクトー! パパが帰ってきたぞー!」
ハンスが俺の頭を撫でた。
俺の父親のハンスは、口髭を生やした大柄な男だ。
筋骨隆々で、見た目はイカつい。
左手に大きな槌を持っている。仕事は鍛冶師か?
「ふふ。いっぱいママのおっぱいを飲んで、大きくなるんだぞー!」
「もう! ハンスったら!」
仲のいい夫婦だ。
どうやら俺は、暖かい家庭に生まれることができたらしい。
家族に恵まれてよかった。
……って、あれはなんだ?
エリシアとじゃれ合うハンスの後ろに、白いもふもふした毛が生えた生き物がいた。
犬なのか猫なのか、よくわからない。どっちにも似ている感じだ。
つぶらな黒い瞳に、ぴんっと立った猫のような耳。だが顔は、柴犬に似ている。しっぽを振りながら、ハンスの足にまとわりついている。
「タクト、ロキに挨拶しろ」
ハンスはエリシアの腕の中から俺を取り上げた。
それから自分の足元にいる、ロキという不思議な動物の前に俺を近づける。
「くうんんんんん……」
ロキはクンクンと俺の匂いを嗅いだ。
「きゃうきゃう!」
ロキは鳴き声を上げた。
なんだか喜んであるようだ。
よかった。俺はロキに好かれたらしい。
動物と一緒に暮らしたい——あの女神が俺の望みを叶えてくれたのか。
俺の新しい家族は、母親のエリシア、父親のハンス、そして、ロキだ。
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