社畜の俺、異世界で最強テイマーの弟子になる。魔獣から助けたもふもふ姫に獣の国に招かれて、溺愛されながらスローライフを楽しむ。
水間ノボル@『序盤でボコられるクズ悪役貴
第1話 社畜、転生する
深夜十二時、俺は会社を出た。
疲れきった身体を引きずりながら、なんとか駅まで俺は歩いていく。
地方都市のオフィス街は、暗くて寂しかった。お店はすべてシャッターが締まり、もう歩く人はほとんどいない。
俺――田中優人(たなかゆうと)。今年で二十七歳。独身で彼女いない歴=年齢の社畜だ。
システム開発の企業に新卒で入社して五年。
毎日納期に追われ、終電まで働く日々。
明日は土曜日、やっと今週が終わる――と思っていたが、プロジェクトの遅れを取り戻すために、明日も出勤しないといけない。
我が社では、こういう休日出勤は日常茶飯事だ。もちろん割増賃金など払われない。
そろそろ転職しよう。この会社にいたら命が危ない。俺もだいぶスキルがついてきたからな。
そんなことを考えながら、誰もいない交差点で、信号が青になるのを待っていた。
やがて信号は青になって、俺はフラフラになりながら横断歩道を渡っていると――その時だった。
横からトラックが突っ込んできた。
「ヤバイ! このままじゃ死――」
◇
俺は仰向けに倒れていた。
「ぐっ……頭が痛い」
ズキズキと痛む頭を抑えながら、俺はゆっくり立ち上がった。
一面真っ白な世界だ。見たこともない知らない光景。
「ここはいったい……?」
「目覚めましたか?」
背後から女性の声がした。
白いドレスのような服を来た女性が、俺の目の前に立っていた。
昔、世界史の授業で見た、古代ローマ人のような格好をしていた。金のティアラを頭につけ、深紅のストレートの髪は、腰ぐらいまで伸びている。
「タナカ・ユウトさん、あなたはトラックに引かれて死んでしまいました。それで、これからあなたを、別の世界に転生させますね」
(死んだ? 別の世界? 転生?)
俺はわけがわからなかった。
混乱して頭を抱える俺を無視して、女神は話を続ける。
「私はこの世界の女神です。名前はセレナと言います。こちらの手違いで、タナカさんを死なせてしまいました。お詫びに次の人生では、タナカさんに理想の生活を送らせてあげましょう。タナカさんは、どんな人生をお望みますか?」
女神は微笑みながら、俺に優しく語りかける。
その声は困惑する俺を落ち着かせるように、心地よい。
俺はふうっと深呼吸して、冷静になろうとした。
とりあえず、今は問われたことに答えよう。こちらから質問するのはその後だ。聞きたいことは山ほどある。
「俺の理想の生活は……田舎でゆっくり暮らしたい。仕事に追われることなく、自分の好きなことを好きなようにできる人生がほしい」
死ぬ前の俺は、ゆっくり休む暇のない人生だった。学生時代は学費を稼ぐためにバイトを三つ掛け持ちしてたし、社会人になってからは有給休暇は一日も取ったことなかった。
「それだけですか?」
「あとは……動物と一緒に暮らしたい」
俺は猫を飼っていた。
二歳の三毛猫で、名前はトラスケだ。
ブラック企業で心身をすり減らしていた俺の、唯一の癒しだった。
親戚から譲ってもらった、俺の大切な家族だ。
(トラスケの奴、大丈夫かな? きっと俺の帰りを、ずっと待っているよな……。いつも残業ばっかりで、あんまり構ってやれなかったから。)
次の人生があるなら、ゆっくり動物と過ごしたい。
「他にはありますか? お金持ちになりたいとか、特別な才能がほしいとか、何でも望みは叶えてあげます」
「…………いや、他のものは要らない。俺はただ自由に楽しく暮らせばいいんだ」
穏やかに自分の好きなことをしながら暮らすこと、俺にとって、それに勝るものはない。
女神は俺の顔をじっと見つめながら、ゆっくりコクりとうなづいた。
「わかりました。では、転生してもらいますね。次の人生は幸せになってください」
「待って! こっちも聞きたいことが――」
俺はまばゆい光に包まれた。
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