第31話

『さあ、後方から3番人気ソゾーノビットも徐々に位置取りを上げてきました。残り600メートル、先頭は未だコミナテンです。リードはまだ4馬身ほど、後方の馬は届くかどうか』


 レースも終盤だが、先頭のコミナテンは未だにリードを保ったままだった。


「あの馬、このまま逃げ切っちゃうんじゃないか?」


「結構楽なペースで回ってきちゃったってのもあるね……でも、ミーティアの能力だけで言えば射程距離圏内だと思うよ?」


「まともに走れば、の話だろう?」


 ミーティアの能力が高いのは俺も分かってる。新馬戦で最後方からごぼう抜きできるほどのポテンシャルを持った馬なのだ。

 ただ、ミーティアがまともに走ってくれるとも限らない。あいつには新馬戦で色々やらかしてくれた前科があるからな。


『6番ミヤビミーティア、そろそろ動きたいところでしょうが若干馬群に飲まれつつあります。鞍上長宝院、良い進路を探せるか! さあ、先頭2番コミナテンは最後の直線に向いた! 残り400メートル! 後続から8番アブラナセイリュウ、12番ノースアースガルズもやってきている!』


「うっわ……あれ、進路取れるか……?」


「もう麗華、進路を取るのが遅いんだって!」


 イオは麗華のレース運びにもどかしさを感じているようだった。麗華のやつ、後でイオから色々お小言を言われるんじゃないか?


『徐々に先頭との差が縮まってきた! しかし、まだ2馬身ほどのリードがある! 後ろはノースアースガルズ、オガルカヤなど! 6番ミヤビミーティアはまだ前が空かない!! これは厳しいか!? 後方集団からはソゾーノビットが抜け出してくる! 残り300メートル!』


「クソっ! なんとか抜け出せミーティア!」


 ミーティアには性格以外の問題では負けて欲しくない。どうにか前をこじ開けられないかと俺がやきもきしていると、ミーティアが急に動き始める。


『6番ミヤビミーティア、右往左往してなんとか進路を探している! 前をこじ開けようかという勢い! 先頭のコミナテンのリードもあとわずかになってきた! 残り200メートル!』


 麗華の指示を待たずして、どうにか前の馬を抜かそうとしているように見えた。あの性格で意外と負けず嫌いなのかもしれない。


 ミーティアの加速があれば、前が開いたとたんに抜け出せるはずだ。

 その時、一瞬だが前にいたオガルカヤとノースアースガルズの間に小さなスペースが出来た。ただ、馬が1頭通り抜けられるような広さは無い。

 もう少し空いてくれれば。きっとミーティアに騎乗する麗華を含め、競馬場にいるほとんどの人がそう思っただろう。

 

 しかし、そのわずかなスペースが開いた途端、ミーティアはグンっと加速した。

 まさかそんなスペースにミーティアが突っ込んでいくとは思わなかったのだろう。ミーティアの加速に置いて行かれるように、麗華は体のバランスを崩してしまう。


 ゴールまであとわずか。ここで抜ければ勝利を掴みとれるというところ。

 しかし、予想だにしていないミーティアの動きに、麗華はついていけなかった。


『6番ミヤビミーティア! 落馬! 落馬発生です!! 後続の馬は……なんとか避けた! 巻き込まれませんでした! 長宝院ジョッキー、残りあとわずかというところで落馬してしまった!』


「だああああ!? まじかよ!?」


 俺は目の前で起きた出来事に頭を抱えて叫んでしまった。

 目の前でジョッキーの落馬シーンを見ることになってしまったが、なかなかショッキングな映像である。


「いやあ……ゲームで良かったよ。見ていて心臓に悪い」


 愛子も若干青ざめた顔でそう言った。

 麗華がバランスを崩した瞬間、俺もゾッとして冷や汗を掻くかと思った。


「…………帰るか」


 ミヤビミーティアの2戦目、フィンタワーステークス。その結末は後味の悪いものになってしまうのだった。


 


 

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