Love or Death ~君は天使で悪魔な相棒~

骨肉パワー

第1話

「ふいいい。疲れたぜ…」


 鉛のように重い体を動かして、男が重たい鉄の扉を開き部屋の中に入る。開ける際にギシギシという異音が鳴ったが男がそれを気にする事はない。格安の2Kマンションにそこまで期待する事は酷な事だと男はよくよく理解していたからだ。


(このマンション。防音性能に関してはそこそこいいんだが、建物の細かい部分の劣化が進行してるんだよな)


 だからこそ家賃が安いとも言える。世の中は上手く出来ているという事だ。過酷な現実に男は頭を痛めていた。


 この男、川本太郎の人生は最悪だった。大学受験に失敗し、生活費を稼ぐために日々非生産的な非正規雇用での労働を繰り返す。言うならば人生の王道レールから零れ落ちてしまった側の人間だ。そんな生活を2年も続けていれば現実が如何に腐っているのかという事を骨身に染みて理解できるという事だ。


 疲れた体にムチを撃ち、激安スーパーで大量に購入した食品を次々と冷蔵庫にブチ込んでいく川本。


「昨今は自炊よりも外食の方が安い!」


「…なんていう寝ぼけた事を提唱している人もいるらしいが、俺からしてみればそれは大いなる誤解と言わざるを得ないな」


 食材や作る料理の種類にもよるが、やはり自分で料理を作った方がいくらかは安くなる。問題はその後に待ち受ける洗い物という過酷な現実と向き合えるかどうかだ。


「洗い物はマジで面倒だからな。これが嫌で外食をするという人の気持ちも俺には分かる。物凄く理解できる」


 全自動食洗器でも買おうかなどと、川本太郎の思考は少しずつ逸れていった。


「いかんいかん。まずはこの命の食材を収納しなければな」


 産地不明の怪しい野菜を冷蔵庫にぶち込み仕訳をしていく。この作業自体は数分で終了した。満足した川本は冷蔵庫からキンキンに冷えた酒を取り出す。


(嫌な事を全て忘れるにはこいつが一番だな)


 2000円で購入した無駄に高級なタンブラーに、ブロック状の氷を積み上げていく。


(タンブラーてマジで凄えんだよ。氷が全然溶けないからな)


 カランコロンという氷がぶつかる音を楽しみつつ、ゆっくりと酒を注いでいく。注ぎ終わった酒瓶を冷蔵庫に戻し、今度はブロック状の巨大なサラミを取り出しテキパキと輪切りにしていく。最初から輪切りかつ個別包装されたサラミの値段は高いのだ。節約のためにもこの程度の手間暇は惜しまない。それが川本という男だ。


「~~~♪」


 適当に輪切りにしたサラミを片手に持ち、川本はパソコンが置いてある部屋に向かう。2Kのマンションという事は当然部屋は2つある。片方を筋トレ専用ルーム。もう片方を寝室兼パソコン部屋として川本は使用していた。年季の入ったドアノブを回しつつ室内に足を踏み入れる。酒とつまみをデスクに置き、川元はパソコンの電源を入れた。

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