コンストラクティブゴーストトレーナーズ

つねひろ

第1話

「お化けに取り憑かれてるんです…、私」

「構わない、好きだ」

 間髪入れずにそう答えられ、女は一瞬たじろいだ。

「いや、お化けごと好きになって欲しいわけじゃくて……」

 そう言われて男は少し考えて、

「あ、じゃあお化けは俺がなんとかしてみます」

と続けた。

 ロマンチックな夜景を見ながら、妙な会話をする2人。

お化けに取り憑かれているという女は小田雛子。24歳。OL。コンプレックスはチンチクリン。

お化けをなんとかすると言う男は三原毅一郎。27歳。サラリーマン。趣味はプラモデル。

「お化けをなんとかしたら結婚を視野に入れてお付き合いしていただけると言う事でもよろしいですか?」

「えっ? いやっ、そうじゃなくって、そういってもらえるのは嬉しいんですけど、お化けが憑いてるから、私と一緒にいると迷惑がかかっちゃいますよっていう……」

 雛子は慌ててそう言ったが、

「迷惑なんてとんでもない。お化けのおかげで君の役に立てるチャンスが来たとも言える。俺が非常時にどの程度頼れる男なのか評価してもらえる好機です。全力で頑張ります」

 毅一郎は力強く拳を握り、頷いた。で、雛子の顔や背中をジロジロと覗き込んで

「ちなみに今もお化けは居るんですか? 俺そういうのわからないんですよね」

 と聞いて首を傾げた。

「いえ……、私がウチで寝ている時に出ます」

 と、家の方向を指差しながら雛子が答える。

「なるほど、ということは」

 毅一郎は目を閉じて思案し、3秒ほど考えて目を開けた。

「つまり相手は雛子さんのようなチビ相手でも寝込みを襲わないと勝てないようなヤツですね」

「チ、チビって……、まあチビですけど」

「そこも好きなんです」

「えっへへ。じゃなくて、別に寝込みを襲って勝とうとしてくるっていうわけじゃないんです。私は金縛りになって動けないんです。そこになんだか、ぼんやりと人の形をした黒い影が出てきて、私、毎日すごく怖くて……」

 話しながら、雛子は恐怖体験を思い出して自分の肩を抱いて震えた。

「ふむ。金縛りか……。毎日出るんですか?」

「はい、毎晩同じ時間に」

「偉い」

「え?」

「そんな怖い目に遭いながら毎日同じ時間に寝ているなんて偉いです」

「ああいえ……、でも毎日そんなだから、ちゃんと眠れなくて、疲れちゃって……」

「ふむ。金縛りに、人の影、ですか」

 毅一郎はそう呟きながら、腕組みをしつつ右手の親指で自分の下唇を触る。考え込む時の癖だ。

 そしてこれも考え込む時の癖で、何気なく視線を宙にむけて、

「あ! 雛子さん。ほら見て!」

 夜空を指差した。

「星が綺麗だ!」

「えっ? あっ、ホントだ!」

 綺麗な星空が広がっていた。

「夜景ばかり見てて気が付かなかった」

「うん、ホント」

 たった今までお化けの話で震えていたのに、雛子は微笑んだ。

 しばらく並んで星空を眺め、冷たい夜風が2人を近づけた。

 雛子は毅一郎の肩に頭を預けて、毅一郎は雛子の肩を抱き寄せた。もう震えてはいない。

「待ってろよ、お化け」

 毅一郎の言葉でお化けを思い出した雛子の肩が再び震えた。

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コンストラクティブゴーストトレーナーズ つねひろ @tunehiro

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