第33話

〈_放課後、ある空き教室にて。〉

「真央ちゃん、あのね!」

「ん、どうした?」

「らむね達、ずっと2人でアイドルやってきたでしょ。先輩達が卒業して、真央ちゃんが入学したてのらむねを誘ってくれてから。真央ちゃんと2人なのはすっごく楽しいんだけど、これからはもう一人を入れて3人でやっていきたいの! もっと仲良くなりたい子がいるの!」

「奇遇だな。あたしも紹介したい子がいるんだ」

「そうだったの!? じゃあらむね達、4人組になっちゃうかも!」

「だな。じゃあ、早速会いに行ってみるか」

「うん!」


〈放課後、温室に向かっていると伊藤さんに声をかけられた。〉

「水川さん、大変なことになったんだよ」

「大変なことって……一体どうしたんですか?」

「温室が取り壊しになるかもしれないんだ」

「えっ……」

「園芸部がないのに温室を維持する必要がないと判断されたらしい。今までは卒業生が管理しているっていう後ろ盾があったけど、それももうなくなってしまったから……」

〈最終決定は一週間後らしい。伊藤さんはそれまで先生たちに掛け合ってくれると言っていたけど、望みは薄いだろう。〉

〈心が一気に冷たくなるのを感じた。私の大切な温室たからものがまた消えてしまうの……?〉

「どうしよう……」

〈その時、遠くから声が聞こえた。〉

「玻璃ちゃーん!」

〈声の方を振り向くと、小鳥遊先輩が富田先輩の手を引いてこっちに走ってきていた。〉

「真央ちゃん、紹介するね! この子は水川玻璃ちゃん!」

「えっと……驚いたな。実はあたしが紹介したいって言ってた子は玻璃なんだ」

「えええ!」

〈紹介? なんの話をしているんだろう……〉

「玻璃ちゃん!」

「玻璃」

「「一緒にアイドルにならない(か)?」」

「はい!?」

「玻璃ちゃんが来てくれたら、もっともーっと魅力的なアイドルになれると思うの!」

「それに玻璃は歌が上手いから、たくさんの人にその歌声を聞いてほしいな」

「えっ、玻璃ちゃんの歌聞いたの!? 真央ちゃんいいなぁー!」

「……む、無理です。できないです。アイドル、なんて……それに今、それどころじゃないんです。大切な温室が、取り壊されるかもしれなくて……」

〈言葉にしたら涙が込み上げてきた。泣いたらだめだ……泣いたってどうにもならないでしょ……〉

「まだ、決まったわけじゃないんだよね?」

「え?」

「決定じゃないなら、手の打ちようがあるな」

「早く計画しないと時間無くなっちゃう。今から作戦会議しよう!」

「そうだな」

〈そう言って2人は歩いていこうとする。〉

「ほら、玻璃ちゃんも一緒に行こう!」

「……2人はどうしてそこまでしてくれるんですか?」

〈2人は顔を見合わせた。〉

「どうしてって、そりゃ、なぁ?」

「私達2人は玻璃ちゃんと玻璃ちゃんが大切にしている温室に心を射抜かれちゃったんだよ。どこまでも大切にするに決まってる!」


「らむね、閃いちゃいました! 題して、『玻璃ちゃんもお花も好きになってもらおう大作戦』!」

「どういうことだ?」

「温室でMVを撮影するの! 歌うのはもちろんらむね達3人でね。それを学園のみんなに見てもらったら、玻璃ちゃんの可愛いさも温室の素敵さもいっぺんに伝えられると思うんだ!」

「なるほどな。ところで曲はどうするんだ? あたし達2人の曲を使うか?」

「らむねね、玻璃ちゃんと出会ったあの瞬間から伝えたい言葉が溢れてくるの。だかららむねに書かせて!」

「じゃあ、新曲に決定だな。……玻璃、どうする?」

〈私は……〉

「やります! 大切なものを守れる希望があるなら!」

「うん! じゃあ、決まりだね!」

〈それから数日後、2人に呼び出されると本当に曲が出来上がっていた。初めて聞いた時に『この曲を歌いたい』って強く思った。3人で練習を重ね、ついに本番を迎えた。〉


〈温室に私達3人の声が広がる。ここで一人歌っていた時とは全く違う、声の重なる楽しさ。大好きなこの場所がいつもより輝いて見える、ワクワクする!〉

〈私達は撮影したMVを学園中の人たちに向けて公開した。反響は……驚くほどだった。〉

〈「学園にこんな素敵な温室があるなんて知らなかった」「温室を取り壊さないでほしい」といった声が多数あがり、取り壊しの計画はなくなった。それだけではない。園芸部に入りたいと私を訪ねてくる生徒も現れた。〉

「よかったな、温室の取り壊しが無くなって」

「はい。2人のおかげです」

「ううん! 玻璃ちゃんの想いがみんなに伝わったんだよ!」

「そう。頑張ったんだからもっと自分を褒めてもいいと思うぞ」

「そう、ですかね」

「ところで玻璃」

「なんですか?」

「園芸部に入りたいって言う子の申し出をみんな断ってるらしいじゃないか。どうしてなんだ。部活動になった方がいろいろと活動もしやすいだろうに」

「そもそも私は園芸部員じゃありませんから。それに……」

「それに?」

「やりたいことができたんです。私……富田先輩と小鳥遊先輩と一緒に、アイドルやりたいです」

「ほんとに!? 嬉しい!」

「それでいいのか?」

「はい。学園に来て、あの温室を守ることが私のやるべきことだと思っていました。でも2人に出会って、今までの人生では考えられないような経験をして……興味が湧いてしまったんです。2人の側にいたらどんなにすごい景色が見られるんだろうって」

〈植物は大好きだけど、私のすべてではない。私は一歩踏み出したんだ。〉


「じゃあ、これから新しいグループになるってことで、名前はどうしよっか?」

「そうだなぁ……」

「私から、一ついいですか?」

「うん、聞かせて」

「私達を繋いでくれたのは植物だと思うんです。だから、新緑みたいな美しい黄緑色の宝石からとって、『ペリドット』なんてどうでしょうか」

〈私は一呼吸置いた。選んだ理由は色だけではない。〉

「宝石には花言葉みたいに石言葉と言われるものがあります。ペリドットの石言葉は夫婦の愛、そして運命の絆」

〈私と出会ってくれた2人との絆がどうか運命でありますように。〉

「運命の絆、か……いいな!」

「よーし! 今日から私達はペリドットだ!」

〈こうして私達『ペリドット』が誕生した。〉

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