第33話 散歩=おんなのこ
最近、感じたことがある。
「百合の供給。ユリニウムが足りない」
『お馴染みのぶっ壊れてるクソボケがいて僕たちは安心したよ』
転生して十年以上経ったが、俺自身が女の子になってしまったことでユリニウムが不足しているのだ。
お前が女の子なら
自分で言うのもなんだが、中学の卒業文集で女の子同士がイチャイチャしている空間に存在する観葉植物になる為にはどのような事をするべきかを書き記していたらあまりの出来栄えで市役所で掲示されるほど、俺のこの百合を観察する執念は強い。
しかしながら、ユリニウムが一度も摂取出来なかった、という訳では無い。さとちゃん達がいたから一定基準の供給はあった。
「でも、足りない」
『休日の散歩中に何言ってるんだろう』
「だから今回の散歩の目的をオロチに発表するよ」
『ミュートしたい』
うるせぇ黙って聞けよ。
「さて、今回はカワイイ女の子達を探そうという目的で散歩をしていこうかな」
『来栖音が言うとオジサンが言った時のような犯罪臭がするんだけど……』
「私以外は予定があるって言ってたから暇潰しするにはピッタリかなって」
『どこをどう考えてもピッタリの意味を履き違えてると思うよ?』
さとちゃんは『二三四家』の用事があるらしく一日家を空けるとの事。ヒカリとエイは家族旅行。そして鈴は学校の宿題に追われて来れないと【端末】の返信アプリに書いてあった。
返信アプリは
そういうこともあり、鍛錬をする以外自由な一日だった俺は朝の鍛錬が終わって以降暇になってしまったのだ。
「だから今は
『ちょっと待って。自然な感じで『こんなやつ』とか言わなかった?』
「気のせいだよ。聞き間違えたんじゃない? ちゃんと聞き取ってよ
『難聴クソ蛇!? 隠す気無くなったしこのやり取り前にもやった覚えあるよ!? ねぇ使い回してない!?』
「前よりも酷い悪口になったからいいかなって」
『悪化しちゃダメなんだけど……?』
「最近オロチのツッコミがパターン化しちゃってるからもうちょっとレパートリー増やして欲しいよ」
『あぁ、それはごめんよ。意外とツッコむ側もタイミングとか返し方とかが難しくて…………って騙されないよ僕たちは?
「お、虹だ」
『聞いて?』
雨も降ってないのに七色の虹が空に架かっている。何かいい事でもありそうだな。
実は虹って日本とかでは七色が共通認識だけど国によっては五色だったり、少ない所だと二色しかないっていう認識の国があるらしい。前世の大学の講義中に教授が雑学として教えてくれたのを覚えている。
まぁ、その後すぐに一番元気な声で「ウツキをすこれよ!」とかほざきやがった時は教室の空気が凍ったし、俺も「あ、入る大学間違えた」とか思った。何処にでもいるんだたな『おわはて』ファンって。ファンの大半がおかしい作品とは? 俺みたいな一般的な『おわはて』ファンを見習って欲しかったよ。
「何処かに可愛くてよく人を揶揄うのが好きな目のハイライトが無い女の子居ないかな」
『抽象的過ぎて引くよ』
「適当に歩いて来ちゃったけどここ何処だ?」
鈴やさとちゃん程では無いが俺もよく考え事をしていると道に迷うことが多々ある。だからと言って助けを求めるほど壊滅的では無いので、流石に(鈴やさとちゃんみたいに)目を一瞬でも離したらいなくなってしまうとかは有り得ない。それに【端末】の地図アプリ見れば迷子問題なんて速攻解決するしな。
懐から端末を取り出し、慣れた手つきで地図アプリを起動したのだが……。
「地図アプリが起動しない……?」
【地図の読み込みに失敗しました】と表示された。端末を見て焦燥に駆られる。おかしい。
普通の【端末】の地図アプリは戦場地区全体であれば何処でも使用出来るハズ…………もしや
「【襲撃体遮断結界】内部に似た空間に迷い込んだのかな」
『来栖音、構えて』
「──きゃはッ!」
「ッ! くっ!」
オロチの声と背後からの嗤い声で半ば反射で前へと身体を倒すとさっきまで俺の頭が在った位置に大鎌が横に通過した。
横薙ぎに振るわれた後を追うように発生した風圧を背中で感じた。直感で避けなかったら御陀仏だったぞ!?
「避けちゃったぁ? なら、もう一回!」
「【
手元に顕現した鎖鎌をすぐさま防御に専念させる。
キィッ……と、硬いもの同士がぶつかり合う嫌な音が
鎖からギチギチと音が鳴り、これ以上は防ぎきれないと直感が告げていたので一度距離を置く為、脇腹狙いで蹴りを放つ。しかし、その脚は空を切った。
「ゃあ!」
「おっと……アブナイよお姉ちゃん!」
「余裕そうに言ってても説得力ないよ」
「ぶーぶー。つまんないのー。お姉ちゃんが死んでくれなかったからねぇ」
飄々と掴み所のない喋り方で身の丈以上にある大鎌を振り回しながら謎の少女は自身の思うように行かずに不貞腐れる。……いや、あれは演技だな。薄っぺらで何もかもが嘘だらけな空虚な少女。俺から見た第一印象はそんな風に感じた。
「初めてにしては随分と過激な挨拶だったよ?」
「気に入ったぁ? 気に入ってくれちゃったぁ? きゃは、きゃはは! 初めての挨拶が大成功しちゃったからボク、とってもとっても嬉しいなぁ!」
「……酷い顔だね」
ケラケラと心底愉しそうに嗤う。その顔は加虐に染まった表情をしていた。狂ってやがる。でもその顔に見覚えが……?
「一応聞くけど……私と何処かで逢った?」
「そんな訳ないじゃん! きゃはは! お姉ちゃん変な事聞くねぇ? ボクは今日、産まれて初めて女の子に逢ったのが嬉しくて、嬉しくて嬉しくて…………ボクの【武装】の飾りに丁度いいからその顔取っちゃいたいから襲ったのぉ!」
「どうやら色々と事情はありそうだけど……うん、そうだね。そんな理由で人を襲っちゃうのはちょっと罰が必要だね」
『来栖音、彼女は危険だ。始めから全力で行かないと死ぬよ』
(大丈夫、私の力でも本気でやれば勝てない相手じ───)
「きゃは? お姉ちゃんはボクよりよわよわのざこお姉ちゃんなのに……巫山戯ちゃってると【武装】の飾り付け、もっと豪華にしちゃおっと!」
(オロチ、本気、潰す)
『……わ、分かった…………沸点ひっく』
(何か言った?)
『イエナンデモ……』
「ごめんなさいの準備。しといた方がいいんじゃないかな? 君みたいな子にピッタリだと思うよ……メスガキめ。舐めてると潰すよ?」
「きゃはッ!」
散歩をしていただけだった筈が、いつの間にか戦闘が始まっていた。
メスガキは成敗するしかない。これは全男性諸君の代表(身体は女の子)として、果たすべき使命だ。
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