死に戻り侯爵令嬢はイエスの子でした

アソビのココロ

第1話

「モネ様、少々手を貸していただけないかしら?」

「答えはもちろんイエスですのよ」

「ありがとう存じます!」


 ああ、学校生活が楽しい!

 前もこんなふうに過ごすべきだったわ。


 私の名はモネ・ラングフォールド。

 ラングフォールド侯爵家の長女ですわ。

 私には秘密がありますの。

 所謂『死に戻り』なんですの。


 死に戻り、それは人生を一度終えたのにも拘らず、過去のある時点からやり直すという現象ですわ。

 ごく稀にあるとは聞いたことがありますが、どうして私が死に戻ったのかは……。

 いえ、やはり未練が大きかったせいではないでしょうか?


 私が前世(なのかしら?)で命を落としたのは、王立学校の卒業パーティーの会場ででした。

 突然の闖入者に刺されて意識を失ったのです。

 気付いたら一〇歳、王立学校入学直前の朝でした。

 混乱はしましたが、おそらくこれが死に戻りなんだろうと結論を出すのに、そう時間はかかりませんでした。

 神様のお計らいに感謝いたしました。

 心残りがあったからです。


 どんな心残りかですって?

 人生これからだったのに亡くなってしまったことではありません。

 卒業パーティーで刺されたあの時、ヴァージル王子殿下がかばってくださったのです。

 殿下が凶刃に倒れ、足が竦んでしまった私は逃げられもせず刺されてしまい、殿下を無駄死にさせてしまいました。


 いえ、殿下が本当に亡くなられたかはわからないです。

 けれども殿下の行為を無にしてしまい、おめおめと死んだ私の中ではそういう扱いなのです。

 光り輝くように美しく、聡明であったヴァージル王子殿下。

 トワイライト公爵家令嬢アンジェリカ様との婚約発表も間近であられたのに。


 私は自分を許せない。

 生前の私(と言うのも変ですが)は、とにかくラングフォールド侯爵家に相応しい淑女であれと教育され、また自身でもそれを目指しておりました。

 でもそれではダメなのです。

 同じ人生をなぞっていては、ヴァージル殿下の気高い行為に報いることができないからです。


 一〇歳に死に戻った私が何をし始めたか。

 身体を鍛えることと武道。

 特に無手術の稽古、それから回復魔法の勉強ですわ。

 ヴァージル殿下と私を刺した闖入者、あの愚か者を叩きのめさねば何のために死に戻ったかわかりません。

 そして仮にヴァージル殿下が刺されたとしても、私の回復魔法による応急手当が間に合えばお命を救うことができます。


 私が殿下のためにできることは以上です。

 しかし小さいことではありません。

 任務を全うせねば!


 両親には散々言われました。


『モネ、無手術なんて何のために習うんだい?』

『淑女らしくないですよ』

『お父様、お母様、誤解がありますわ。無手術は礼に始まり礼に終わるんですのよ』

『そうなのかい?』

『ええ。淑女の精神を養うのに最適だそうですわ。最近の流行らしいのですわ』


 まるっきりウソというわけではありません。


『じゃあ魔法は? これこそ淑女には必要ないだろう?』

『攻撃魔法を覚えようというのではありませんわ。回復魔法は、淑女らしいと言えないかもしれないですが、少なくとも聖女らしいのではないでしょうか?』


 両親を煙に巻きました。

 学校では後半の学年から魔道理論の基礎も学びましたので、もちろんその知識は死に戻ってからもあります。

 検査で私の魔力が大きいことも判明しています。

 入学時から回復魔法を学べば必ずものになると思っていました。


 ありがたいことに、何だかんだで両親は私に無手術と魔法の家庭教師を付けてくださったのです。

 無手術の先生には、大変練習熱心で(以下オフレコ:貴族の令嬢らしからぬ)気迫があると。

 魔法の先生には、天才だ(学校で理論を一度習っているから当然ではあります)と言われました。

 その評価は両親にも伝えられ、優秀で誇らしいと言われました。

 褒められるのは嬉しいですね。


 しかし私は褒められるために学んでいるのではないのです。

 来るべき日のために、牙を研いでおかなくては。


          ◇


「モネ様、ここがわからないのです。教えていただけませんか?」

「もちろんイエスですのよ。どれですか? ああ、これは『アレクサンドロスの兵法書』からの引用ですわ。古語と戦術理論の両方を問うものですから、難易度が高いですわね」

「ええ? どうしてモネ様はこんなのを知ってらっしゃるんですか?」

「たまたまですわよ。『アレクサンドロスの兵法書』は図書館に現代語注釈が置いてありますわ。読めばこれはすぐ理解できますわ」


 昔の私は淑女たらんとし、交友関係も自然狭かったです。

 しかし今の私は違います。

 男女関係なく積極的に交流を持つことに努めています。

 それにはいくつかの理由がありますわ。


 もう私に伝統的な淑女らしい淑女というのはムリです。

 侯爵家という高い家格であるのに奔放な娘。

 私自身が考えても地雷案件です。

 婚約となると二の足を踏むでしょう。

 事実両親から縁談があると聞かされたことは一回もありません。

 死に戻り前はちらほらあったのですけれどもね。

 お父様お母様ごめんなさい。

 

 となると婚姻に頼らず、自分の才覚で生きていくことを考えねばなりません。

 人脈が必要なのですわ。

 貪欲に交友を広げる第一の理由はそれです。

 ……卒業パーティーを生き残って後に必要になることですけれども。


 その卒業パーティーの闖入者についての情報を前もって得られないか、というのも重要な動機ですね。

 事件を未然に抑えられれば最高ですから。


 単純に楽しいということもあります。

 以前は自分のことを人見知りだと思っていましたが、人慣れしていないというだけのことだったようです。


「モネ様、わざわざありがとうございました」

「いいんですのよ。私の勉強にもなりますから」


 昔の私も成績はまずまずでした。

 しかし所詮淑女の教養としてでしかありませんでしたからね。

 習うのが二度目だということもありますが、持つ知識を役立てようという意欲のある現在の方が成績がいいのは当たり前です。


 淑女だった私よりも、未来を自分で切り開こうと考えることのできる、今の自分が好き。

 そして皆と気さくに話せる今の自分が好きなのですわ。

 ああ、学校生活が楽しい。

 神様、二度目の人生を授けてくださって、本当に感謝しています。

 私は必ずヴァージル王子殿下を救ってみせます!


          ◇


 ――――――――――ヴァージル第一王子視点。


「あら、あれはモネ様ですわね」


 昼休みに学校の裏庭を散策中、アンジェリカの指摘にそちらを見ると、ラングフォールド侯爵家のモネ嬢がいた。

 こんなところで何をしているんだろう?


「行ってみましょうか」

「うむ」


 今は俺やアンジェリカの取り巻き達も近くにいない。

 二人きりになりたいだろうと察して、離れてくれているのだ。

 アンジェリカとはそんなんじゃないのに。

 でも息抜きできる貴重な時間ではあるので、俺もアンジェリカも否定しはしない。


「モネ様!」


 モネ嬢は少し驚いたようだ。

 あっ、小鳥?


「殿下とアンジェリカ様ではありませんか」

「すまん。小鳥が逃げてしまったな。餌付けしていたのか?」

「いえいえ、違うんです。あの子は巣立ち直後にケガをしてしまったことがあったんですよ。治してあげたら懐かれてしまって。時々甘えてくるんです」

「そうだったのか」


 モネ嬢の回復魔法は国でも有数、聖女レベルと言っても過言ではないと聞いたことがある。

 いかに生まれつき魔力量が多いと言っても、それほどの腕前になるには血の滲むような努力が必要だろうに。


「天気のいい日は裏庭であの子とお弁当を食べることにしているんです」

「いいですねえ」

「私こそせっかくの殿下とアンジェリカ様お二人の機会を邪魔してしまったようで申し訳ありません」


 モネ嬢も俺とアンジェリカとの仲を誤解している。

 いや、そう仕向けている面は確かにあるし、実際に婚約・結婚に至るルートもあるのだが。

 俺もアンジェリカも、互いに仲のいい幼馴染くらいの感覚しかないのだ。


「いつも二人というのも話題が尽きてしまうのだ。モネ嬢も話に加わってくれんか?」

「もちろんイエスですとも!」


 モネ嬢は『肯定令嬢』とも『イエスの子』とも呼ばれている。

 何事にも積極的で、人に頼まれて断るということがないと言われているからだ。

 侯爵令嬢という高位の貴族でありながら、平民とも気軽に言葉を交わす様が新鮮でもある。


「そういえば、モネ様はどなたかと婚約されてはいないんでしたよね? 婚約の申し込みはないんですの?」


 うわ、真っ直ぐ行った!

 アンジェリカはこういう大胆なところあるよな。

 モネ嬢を気にかけている俺の気持ちを知ってるからということもあるんだろうけど。

 モネ嬢が困ったような顔をしている。


「父からそうした話をされたことはありませんね」

「やはり侯爵のお眼鏡にかなう相手じゃないといけませんものね」

「いえ、婚約の打診自体が来ていないのではないかと」

「「えっ?」」


 美人で成績優秀で抜群の存在感を持つモネ嬢に、婚約の打診が来ていない?

 そんなことある?


「私は発展家と見られていますから、警戒されてしまうのではないかと……」


 発展家って、モネ嬢が貴族平民関係なく広い交友関係を持とうとしていることは知ってるけど。

 誰もふしだらなんて思ってないよ。


「やはり求められるのはアンジェリカ様のような淑女ですよ」


 お転婆だよって考えただけでアンジェリカに睨まれた。

 顔に出ていたか。

 俺も未熟だな。


「兄も弟もいますので、ラングフォールド家の中で私は比較的自由な立ち位置ではあるのです」

「それは存じておりますが」

「ではモネ嬢は学校を卒業したらどうするつもりなのだ?」


 通常これは愚問だ。

 令嬢は学校を卒業したらすぐ婚約、もしくは婚姻というケースが多いからだ。


「卒業後、ですか……」


 ん? 違和感があるな。

 聡明なモネ嬢であれば、婚約がなくとも自分で進む道を決めているような気がしたのだ。

 なのにそうした気配が感じられない。

 どういうことだろう?


「……無事卒業できれば、旅をしてみたいですね。自分を見つめ直す時間が欲しいです」


 思わずアンジェリカと顔を見合わせる。

 まったくもって積極的なモネ嬢らしからぬ、ふわっとしたセリフだ。


「ええ、卒業ですね。卒業すること。私はそのために生きてきたのですから」


 無事卒業できるのなんか当たり前ではないか。

 その時の俺はそう思っていた。


          ◇


 いよいよ卒業の日ですわ。

 私は今日の日のために生きてきたのです。

 必ずヴァージル王子殿下をお救いしてみせます!


 卒業パーティーが始まりました。

 ……冷静に見てみますと、皆さん浮ついていますし、不審者が入り込みやすい環境ではありますね。

 でも今日の私に油断はありませんよ。


「やあ、モネ嬢」

「これはヴァージル殿下ではありませんか」


 記憶によれば、そろそろ闖入者が現れる危ない時間帯ではあるのです。

 そうだ、あの時も殿下はこうして声をかけてくださった。

 護衛のいない一瞬の隙。

 アンジェリカ様は……ああ、あそこで談笑していらっしゃいますね。

 都合がいいです、殿下さえ守れればいいのですから。


「今日はシンプルなドレスだね」

「ええ、動きやすいかと思いまして」

「ハハッ、モネ嬢の素の美しさを際立たせているよ」


 侯爵令嬢なのに装いが簡素過ぎると、侍女にもブツブツ言われましたが仕方ありません。

 いざという時に動けないようではお話にならないのです。


「お、お前が無駄飯食らいの王子だな?」


 来た。

 衣装に着られているような三〇絡みの男。

 記憶にある通りです。

 やり直し人生においても結局どこの誰だか手掛かりはなかったですけれども、何という無礼な言い草だろう?

 殿下は騎士道精神に溢れた立派な方なのに。

 さりげなく殿下の前に出ます。


「どちら様か存じませんが、失礼ですわよ」

「ハハハ、王立学校は貴賎なしがモットーだ。無礼講だよ」

「死ねええええええ!」


 懐から取り出したダガーを振りかぶる闖入者。

 わかってます?

 貴族の参加するパーティーに刃物を持ち込んだだけで重罪ですよ?

 大丈夫、私は冷静です。

 身体が思い通りに動く!

 闖入者の振り下ろす腕を掴んで投げ飛ばす!


「ぐはっ!」


 しめた! ダガーが手から離れましたね。

 すぐさま裸締めで締め落とします。


「衛兵! 何してる!」


 殿下の鋭い声で衛兵が駆け付けた時には全てが終わっていました。

 だらしなくのびた闖入者の男が衛兵に引っ立てられて行きます。

 やった! ヴァージル殿下をお守りすることができた!

 殿下にケガをさせることもなく、回復魔法も私のすり傷に使うくらいでした。

 達成感がありますねえ。


「驚いた……モネ嬢は強いのだな」

「いえ、お恥ずかしいです」

「無手術を嗜んでいるとは聞いていたが」


 どうして御存知なのでしょう?

 学校で話したことはないですのに。

 衛兵の一人から声がかかります。


「モネ嬢。恐れ入りますが、別室で状況を御説明いただいてよろしいでしょうか」

「もちろんイエスですわ」


 髪型も衣装も乱れてしまっています。

 整えたいところですが仕方ないですね。


「俺も当事者だ。同行しよう」

「殿下」

「モネ嬢、エスコートさせてくれ」


 あら、何という御褒美でしょう。

 アンジェリカ様には申しわけありませんが、今だけ殿下をお借りしますね。


          ◇


 ――――――――――ヴァージル第一王子視点。


 衛兵による事情聴取の後、パーティーもそこそこにモネ嬢を王宮に連れて来てしまった。

 もう気持ちを抑えられないのだ。


「あのう、ヴァージル殿下。私、王宮にお邪魔してよろしかったのでしょうか?」

「ハハッ、構わないよ。俺の命の恩人じゃないか」


 しまった、居心地の悪い思いをさせてしまったか。

 構わぬ、すぐ全員揃う。

 今日決めてしまうのだ。


「来たようだな」

「お父様? へ、陛下と王妃様も?」

「驚かせてすまん。モネ嬢に婚約を申し込みたくてな」

「婚約ですか?」


 あっ、全然わかってない。

 父上、説明よろしく。


「モネ嬢。今日の王立学校卒業パーティーでは不作法者が乱入し、そなたに迷惑をかけたと聞いた。衛兵の不手際を詫びるとともに、ヴァージルを守ってくれたことを感謝する」

「いえ、臣下として当然のことでございますれば」

「それとはまったく別の話なのだが、息子ヴァージルと婚約してもらえまいか」

「えっ?」


 やっぱりわかってない。

 どうしたんだろう?

 今日のモネ嬢は察しが悪いな。


「ヴァージル殿下にはアンジェリカ様がいらっしゃるのでは?」

「そう誤解されている向きがあるのだが、アンジェリカとは何でもないのだ。ただの幼馴染で」

「誤解させておく方が外野がうるさくないということがあったんですよ。ごめんなさいね」

「アンジェリカ嬢はトワイライト公爵家を継ぐのでな。水面下で婿を選定している」

「モネには王家から婚約の打診をいただいていたのだ」


 侯爵の言葉に目が点になる。

 婚約の打診してたの?


「何故モネ嬢に婚約を打診していたことを、俺にも話してくれなかったのですか!」

「言う必要があったか? 少しは頭を使え」

「年回りの合う高位貴族の令嬢なんて数えるくらいしかいないんですから。その中でモネさんはダントツで出来がいいでしょう?」


 言われてみればその通りだ。

 トワイライト公爵家アンジェリカのセンがないのなら、まずラングフォールド侯爵家のモネ嬢に話が行く。

 どうして気付かなかったのだろう?

 あっ、侯爵からモネ嬢に婚約の話が出ていなかったのは、王家から縁談が行っていたからか。


「色々事情があるのだ。ヴァージルとモネ嬢の婚約が発表されれば、必ずアンジェリカ嬢はどうなったという論調になるであろう?」

「だからトワイライト公爵家と歩調を合わせて公表する手はずなんですよ」

「ところが今日、ヴァージルがモネ嬢を王宮に連れ帰ったと聞いて泡を食ったぞ」

「ヴァージルがそれほど情熱的だと思いませんでしたよ」


 顔が熱くなる。

 まさかそんな裏だったとは。

 アンジェリカも俺がモネ嬢を好いていることは知っていても、自身の縁談と並行して物事が進められているとは思ってなかったんだろうなあ。

 政略って怖い。


「いかがだろう? 既に侯爵の許可はもらっておる。モネ嬢、ヴァージルと婚約してもらえまいか?」

「……少々考えさせてもらってよろしいですか?」


 おうい!

 モネ嬢は『イエスの子』だろう?

 そこで保留になると思わなかったよ!


 ――――――――――ここでモネ視点。


「何故だ、モネ嬢!」

「いえ、展開が急過ぎて」


 卒業パーティーで闖入者をやっつけることこそが私の生きる意味でした。

 目的が果たされた今、私の心は空虚な状態にあると言いますか。

 目指していたものを失ったからでしょうか?

 いきなり婚約と言われましても、乗り気になれないだけです。

 燃え尽きた私のハートは、殿下に見えないですものね。


「俺のことが嫌いなのか!」

「いえ、今も昔もヴァージル殿下は私の理想の王子様です」

「今も昔も……」


 前の人生で、震えて足も動かない私の前に立ちふさがり、闖入者から守ってくださろうとしたヴァージル殿下。

 私は殿下の恩に報いようと考えたのです。

 そういえば昔も今も、殿下は卒業パーティーの時私の側にいてくださいましたね。

 ひょっとして私のことを思ってくださっていたからなのでしょうか?


「……昔から俺のことを意識してくれていたのか」

「はい。でも殿下はアンジェリカ様の婚約者のようなものだと思っていましたから」


 はい、紛れもなくヴァージル殿下は理想の王子様ですね。

 その殿下が私を妃に求めてくださる……。

 わああああああ?


「ど、どうしたモネ嬢。頭から湯気が出ているぞ!」

「急に殿下への恋心を意識してしまいました!」

「じゃあ俺の婚約者になってくれるな?」

「もちろんイエスですわ!」

「モネ嬢、ありがとう!」


 陛下夫妻もお父様も祝福してくれます。

 新しい目標ができました。

 ヴァージル殿下の妃として、将来の国母として尽くすこと。


 死に戻った時ではありません。

 今この時からが私の新しい人生の開始なのですわ!


「あっ?」

「モネ嬢が光に包まれる?」


 何でしょう?

 悪いものではありません。

 多分神様からのお祝いですわ。

 本当にありがとうございます。


          ◇


 ――――――――――天界にて。創造神と従者精霊の会話。


「ようやく回収できたよ」

「例の悪しき魂ですか?」

「うん。ボクの世界をテロで台無しにしようなんて、とんでもないことだ」


 王立学校の卒業パーティーに悪しき魂を宿らせた男が入り込み、王子と高位貴族の令息令嬢合わせて八人を殺傷した痛ましい事件があった。

 その事件は最終的に内乱と外患を引き起こし、あっという間にボクの世界がメチャクチャになってしまうところだったんだ。

 一縷の望みに懸けて、時間の巻き戻しを行った。


「モネ・ラングフォールド侯爵令嬢の意識を残したのが大正解だったね」


 同じ運命の繰り返しを防ぐため、誰か一人の意識を残したまま巻き戻すことは許されている。

 誰の意識を残して時間の巻き戻しを行うかが大問題だったのだ。


「王子の意識を残したんだったら、こんなにドラマチックにならなかったかもしれませんねえ」

「だろう?」

「でも神様、カンでしょ?」

「カン、とばかりは言えないかな。モネ嬢の無念の意識が一番強かった」

「えっ? 王子よりも?」

「うん」


 時間を巻き戻したからって、もちろんうまくいくとは限らなかった。

 直接の干渉は制限されているから。

 モネ嬢の執念の勝利だ。


「前の時間軸では、王子とアンジェリカ嬢が結ばれるはずだったんでしょ?」

「オーソドックスにね」

「モネ嬢の努力が王子を振り向かせた?」

「そういうことになるね。お手柄だったよ。ボクの世界は守られた」

「じゃあモネ嬢には御褒美だね」

「うん。モネ嬢に最大限の祝福を!」


 光の矢が飛ぶ。

 これでモネ嬢には最高の運命が約束された。

 お幸せに。

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