異世界に投げる手記

金谷さとる

第1話 挨拶

 さて、この手記を手にした君のひとときの暇潰しに役立てば幸いである。

 ひとつ。

 私は個人名を出すつもりはない。

 ひとつ。

 私はこの手記を不本意ながら記している。

 ひとつ。

 この手記は華やかなる国家権力からの圧力である。


 私はそんな華やかなる国において伯爵家の嫡子として育った。

 皇太子殿下とも第二皇子殿下とも少々ばかり年齢差がある半端な立ち位置な者として生まれた私は基本文官系だった為、両殿下に雑務要員と見なされている傾向がある。不本意である。

 この手記は皇太子殿下が後世、もしくは異世界へ届けば愉快……有意義ではないかと身の回りの者達に書くことを強い、協力を要請したものである。

 私も、迷宮から時折り入手される訳の分からない『覚書』は楽しんできたのでやってみたいという殿下の気持ちがわからないでもないが、巻き込まれたのは不本意である。

 だから、この手記を見つけたあなたの僅かな暇潰しになれば幸いだ。読み終えた後は速やかに投げ捨てて頂きたい。

 意味のない雑文なのだから。

 むしろ、読解できるものかもあやしいので余計な時間を割かせてしまっていたなら申し訳なく思う。

 あなたのこれからに幸いが待ちますように。

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