僕は、今何をしている

SAI

僕と君



「なんで、君はいつも僕の方へ来るの?」


「友達だから」


「僕と友達でいてくれる理由は?」


「考えたことない。いっしょにいたいから、そんだけじゃない?」


和葉は、僕の顔を覗き込みながら

「どうしたの?変だよ」

そう言って、バス停のベンチに腰を下ろした。

雨がやんでいるのに気づき、僕はそっと傘をおろした。傘から落ちる雨粒は、濁って見えた。

 




雨が降っている。標識とベンチ一つだけのバス停の周りには誰もいない。僕は、バスを待っている。いや、それは間違っているかもしれない。


なぜ、僕はバス停でバスを見送っているのだろう。今になって運転手が何度も僕の顔を覗き込んできた理由に合点がいった。小さいバス停で一路線しか走っていないのだから。運転手がコチラを覗き込んできたのは、僕を怪しんでいたからだったのか。でもそのわけを聞かれても答えることはできない。僕にも正解はわからないから。

  




 ついに僕も高校生最後の年となった。君と出会ったのはもう3年近く前だ。入試説明会で見かけたのを覚えている。初めて話したのは入学式の日。バス停の場所がわからず困っていた僕に話しかけてきてくれた。その時は当然驚いた。たった一度、半年前に見かけただけの人だったから。君はいまだに、どうしてあのとき僕に話しかけてきてくれたのかを教えてくれない。君のことは、だいたいなんでも知っているけど、これだけは謎に包まれている。でもそんなところがあるのもいいのかもしれない。僕にとって君は大切な存在に違いない。君にとって僕はどんな存在なんだい?



初めはただの知り合い程度だった。それが、変わったのは、二年前の体育祭準備の日だった。

抱きしめるしかなかった。僕はあの日、ひとりで泣いている君に言葉をかけることができなかった。クラス演技の調整を一手に担った君の鼓動も、君の息遣いもすべてわかる距離にいたから、君の気持ちはひしひしと伝わってきた。あの日僕は、初めて友を得た。



それから君は僕と同じバスに乗って帰るようになった。それまで君は自転車で登校してきていたのに、少し遠回りになるバスを使うようになった。人気者の君と、孤独な僕。唯一2人で過ごす時間となった。君は聞き上手で、いつも僕が喋ることに笑ってくれていた。


 時々、こんなに君に頼っていいのだろうかと悩む。僕には君しかいない。君にはたくさんいる。僕は君と過ごす時間の快適さを知ってから、一人でいるときに寂しさを感じるようになった。でも僕には君一人だ。どんだけ僕が話しかけても、近くにいても君は嫌な顔ひとつしない。僕も君みたいになれたらなぁ。



君のおかげで怖さを知った。一人でいる時のあの感じ、何かに挑戦しようとする時のあの感じ。いつも震える手を握ってくれたのは君だった。あのときのぬくもりのおかげで僕は、今を生きている。何度でも、何度でも支えてくれる。そんな君がいたから、遠回りはしたけれど夢を持つことができた。




何度も、何度も、もがいてる。わかってるんだ自分が弱いせいだってことは。でも変われない。もっともっと強くならないとだめだってわかってるのに行動できない。結局いつも頼ってしまう。

「後悔しないように生きなさい」

「周りの目なんか気にせず楽しもうよ」

これまで何度も聞いてきた。聞くたびに、そうだ、これからは明るく生きていこう。そう思う。でもいつも、逃げ出してしまう。そんな弱い自分が、嫌いだ。


 こんな僕を、君はいつも笑顔で助けてくれる。君がいたから今までやってこれた。でも、そろそろ終わりにしなくちゃならない。正直言って不安でしかない。君を見ると、安心して、心が落ち着いて、何でもできるような気持ちになって、君のその笑顔が見たくなってしまう。ついつい求めてしまう。本当にこれまでありがとう。君には君の、僕には僕の人生がまだたくさん、残っている。これからを楽しみにしていて。僕はいつか君に、堂々と会えるように成長して帰ってくる。だからそれまで、さようなら。そしてその時は、よろしく。

 



僕は、バス停のベンチから腰を上げた。後ろからは、足音が迫っていた。

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