第73話 ワンオン狙い
2番ホール・338ヤード・パー4
ここは高低差約20ヤードの打ち下ろし。
グリーンまではなだらかな下り傾斜が続き、飛距離の出る選手であれば、ワンオンを狙えるホールだ。
ただ、220ヤード地点左右には大きめなクロスバンカーがあり、越えるまでに250ヤードの飛距離を必要とする。
一般的な女子選手であれば厳しい距離で、
「追い風、1メートルくらいかな」
瑠利はティーの芝を少し摘み、風と方向を確認。
どうやら風向きは良好。
このコンデションであればワンオンのチャンスだ。
もちろん全力で振るなどしないが、飛距離は力だけで出せるものではない。
適切なヘッドスピードと、正確に芯を捉える技術。
それが合わさって、小柄な彼女でも飛距離を出せるのである。
瑠利は暫くグリーン方向を眺めたあと、己の意志を確認するかのように、声を出す。
「うん、これは、狙うしかないよね」
彼女の手には
そして、二度三度と素振り。
イメージを確かめ、もう一度、方向を確認。
幸いにも、グリーンの正面は開いていた。
グリーン左のバンカーが正面三分の一くらいまで伸びているが、右はガラ空き。
ドローで攻めれば距離も出て、よりチャンスは広がるはずだ。
瑠利はいつもと変わらぬルーティーンから構えに入り、思い切りよくスイング。
バシッと弾かれた打球は高く上がり、追い風にも乗ってぐんぐん伸び、グリーンまで届くかに見えた、が……急に失速。
高い打球だっただけにランも短く、グリーンまで20ヤードほどの地点でボールは止まった。
「あれ?」
瑠利は計算違いだと首を傾げる。
もう少し伸びると思っていただけに、この結果は残念だった。
ただ、ティーからグリーンまで続く長い下り坂を見れば、おのずと答えはわかるというもの。
彼女はフォロー風だけを計算に入れて打ったが、地形を利用すれば、もっと簡単だった。
「そっかー、もっと低い球でランを出せばよかったんだね」
と、ちょっと反省。
けど、済んだことを気にしていても、意味はない。
挑戦なら、また明日すればいい。
瑠利はグリーンを方向を見つめ、頭を切り替える。
ワンオンはできなかったが、もうグリーンは目前だ。
昨日の練習ラウンドでも同じような位置から打っていたので、ここは連続バーディーのチャンスである。
「さてと、次は……」
もうティーショットは済んだので、次は榎本優花里の番。
瑠利はティーを離れ二人を見ると、どこか厳しい表情だ。
というのも、彼女たちは瑠利の打球を見て、唖然としていた。
ボールはグリーンの手前20ヤード。
だが、それは転がってではなく、ほぼキャリー(空中を飛んだ距離)の距離だ。
ここが打ち下ろしだったというのもあるが、その大飛球を見れば、彼女たちの心を折るには十分すぎた。
続く榎本優花里は右のバンカー。
そして華彩秋良は左のバンカーへ掴まり、結局はどちらも3オン2パットのボギー。
瑠利はアプローチを1メートルに寄せてのバーディーと、2連続バーディーを決めた。
けれど、本当に圧巻だったのは4番ホール。
次の3番ホール・352ヤード・パー4を瑠利は無難にパーで通過し、迎えた4番・153ヤード・パー3。
ここはグリーン前に大きな池があり、景観の美しいホールだ。
ただ、グリーン面は横に長く、縦幅は25ヤード。
ピンはセンターにあるものの、手前グリーンエッジから12.5ヤードと、選手たちには池が大きなプレッシャーとなる。
確実に池越えるためには135ヤードの飛距離が必要。でもショートは許されず、かといってオーバーさせればグリーン奥のバンカーへ吸い込まれるという難易度の高いホール。
ここで瑠利が手にしたのは8アイアン。
それに華彩秋良と榎本優花里はピクリと反応。
だが、声には出さず、ジッとその結果を待つ。
瑠利は上空の風を見て、ピンを見る。
旗は全く揺れておらず、風はないようだ。
「よしっ」
一つ気合を入れて、ルーティーンの流れから構えに入る。
悩むことなんて、何もない。
ただ思い描いた球を打つだけだ。
いつものようにバシッと打ち込んだ球は番手通りに高く上がり、ピンへ一直線。
だが、少し大きめであるらしく、そのまま素通りするかに見えた。
ボールの落下地点はピン奥3メートル。そこから1,2回跳ねたあと、鋭いバックスピンがかかり、ピン横50センチまで戻ってくる。
「ああ、惜しい」
あと、もうちょっとでホールインワンだったと瑠利は悔しがるが、それを目の当たりにした同伴競技者二人の反応は……。
「す、すごい」
榎本優花里は素直に感動したらしく、その打球に見入っていた。
そして華彩秋良も、どうやら同じような反応だ。
「な、なによ。あんなの、もうプロと同じじゃない」
と、ようやく実力の差を認めたのである。
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ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
一つ補足事項がありまして、それは選手たちのユニフォーム。
全く描写がありませんでした(たぶん……どっかで書いた気もするけど、それでしたらごめんなさい)
ということで、春乃坂学園の試合用ユニフォームは、白地の半袖ポロシャツに、背中にはピンク色で春乃坂学園の文字が書かれています。
そして下は、こちらも白のショートパンツ。
白とピンクで春っぽい雰囲気だと思います。
一方、ライバル校の竜峰学園は白のパンツに
色合わせのセンスがないので、ちょっと心配です。
あと今戦っている鶴都学園は白の半袖ポロシャツに、赤のショートパンツ。
菖蒲学園は紫の半袖ポロシャツに白のショートパンツで、どうでしょう。
この後に描写が出てくる予定は無いのですが、念のためということで。
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