第39話 新年会➂

 パシオンゴルフガーデンにあるパーティールーム。(※イベント室から名称を変更しました)

  

 ここでは著名なプロゴルファー20名が集まり歓談中であるが、そこに受付を済ませた佳斗と瑠利が入場してきた。


「おっ、主役の登場だぞ」


 そう、声を発したのは井澤翔馬だ。

 彼は雄介からの依頼で、この会の目的を知っていた。

 昨年の活躍で名の売れた佳斗に注目が集まることは自然であり、皆の意識を誘導することこそ、彼の役割なのである。


「いやいや、私が主役って、ここは大内雄介プロの主催する新年会だろ。本人を差し置いて私がって、それは失礼にあたるでしょう」


 会場中の視線を集めながらも、佳斗は丁寧にそれを否定する。

 その物腰の柔らかさこそ彼の武器であり、人々の関心を集めるところであるが、本人はあまり気づいていなさそうだ。


「さあ、ルリくん。プロの方たちに挨拶しようか」


 そう促す姿は師匠と弟子というよりは、親子のそれ。

 瑠利も受付で池月光莉が緊張を解してくれたので、中学生らしく元気一杯で挨拶をする。


「あけましておめでとうございます! この度、神川佳斗先生の弟子となりました、朝陽瑠利です。早く、に立てるよう努力いたしますので、よろしくお願いいたします」


 それは、さすが15歳というほどに、ハッキリとしたもの。

 

 強気な物言いと捉えられないこともないが、プロを目指すのであれば、このくらいで丁度いい。

 むしろ、怖れ知らずで、好感が持てるというものだ。


 ひねくれた考え方であれば、生意気。

 だが、ここに居る者は、ほとんどがトッププロ。

 歓迎することはあっても、それに否定的な意見を唱える者はなく、微笑ましそうな視線で瑠利を眺めている。


 今後、彼女の目指す女子プロの世界は、毎週のようにニューヒロインが誕生する混戦の様相。そんなところに飛び込んでいこうというのなら、メンタルの強さは重要な要素だ。

 

 そういった意味合いでもプロから見て瑠利は合格であり、期待の持てる挨拶であった。

 

「あけましておめでとう。いや~、元気いいね。やっぱ、これくらいじゃなきゃ、プロは務まらないよな。師匠に佳斗を選んだことにも好感が持てるし、三年後を期待しているよ」


 そう話す翔馬に続き、陣馬秀雄も若い瑠利の挨拶に感心した様子。


「あけましておめでとう。まだお若いのに、しっかりしてるね。流石は佳斗君のお弟子さんということですか。ええ、楽しみにしていますよ」


 このように、大御所である二人から認めてもらえれば、瑠利も安泰というもの。

 あとは、自身の努力次第であるが、プロは結果が全て。

 その過程などは一切関係なく、勝ってこその世界だ。


「ありがとうございます。ご期待に沿うよう、努力いたします!」


 瑠利がそう答えれば、誰からともなく拍手が沸き起こる。

 

 現在注目のティーチングプロである佳斗の弟子にして、この度胸。

 プロになる資質は十分にあると、トッププロの面々が彼女を認めたようだ。

 

 そうして佳斗と瑠利が注目を集めたタイミングを見計らったかのように、主催者である大内雄介プロが姿を現す。


「明けましておめでとう。みなさん、私の主宰する新年会に、ようこそお出でくださいました。もう、ご紹介済みかと思いますが、そちらにおりますのは、特別ゲストとして来てくれた神川佳斗君と、そのお弟子さんの朝陽瑠利くんです。今後、活躍を見込める逸材として招待いたしましたので、今のうちに友誼を結んでおいた方が、得策かもしれませんよ。では、短い間ですが、歓談をお楽しみください」


 そう締めくくったことで、佳斗に参加者が殺到。

 トラブルにならないようにと、翔馬と陣馬秀雄が間に入る形で話を進める。


 その先陣を切るのは、長瀬祐樹プロだ。


「佳斗さん、お久しぶりです」


「やあ、長瀬プロ。最終戦以来ですか?」


「はい、あの時は驚きました。失礼ですが、まさか疲れの見え始めていた雄介さんが単独6位でフィニッシュできるなんて、思っていませんでしたからね。あれが佳斗さんマジックだと、僕は思っているんですよ」

 

 そう話す長瀬祐樹プロは、本当に驚いていたようだ。


 昨年の11月、御殿場から始まった高額賞金のツアー4戦。

 普段であれば体力面を考慮し、全てに参加することのない大内雄介がフル参戦したあげく、全てトップ10以内でフィニッシュしたのである。

 

 それを一緒にラウンドしていた長瀬祐樹は脅威に感じ、この新年会へ参加することを決めたのだ。


「ははは、あれはね、雄介の意地なんですよ。これで最後だから、この後はもう倒れてもいいってね。そう言われたら私も、全力で応えるしかないでしょう。出来ることは完璧に読み切って伝えるだけだからね」


 佳斗はそれを当然のこととして話すが、簡単なことではないと長瀬祐樹にはわかっている。

 ただ、それと同時に二人の信頼関係があってのものだと気づき、自分のバッグも担いで欲しいという言葉は飲み込んだ。


「そう、意地ですか……」


「ええ」


「さすがは大内雄介プロ。粘られたら脅威ですね」


 それだけ告げて、長瀬祐樹は交代する。


 次は阪元秋生プロ。


「初めまして、神川先生。お会いできて光栄です」


「あ、はい、こちらこそ。阪元秋生プロですよね。ご活躍は拝見しておりますよ」


「ありがとうございます。早速ですが、いくつかお伺いしても、よろしいですか?」


「ええ、もちろんです」


 そうして話題となったのは、スイング理論について。

 阪元秋生プロはもうベテランに近い年齢となり、スイング改造に力を入れていた。

 そのため、様々な知識を持つ佳斗に会いたかったようで、いくつかのアドバイスを貰い、満足した様子。


「帰ったら、さっそく試してみます」


「でも、無理はいけませんよ。合わないと思ったら、すぐにやめてくださいね」


「はい」


 こうして次は落居和弥プロと続き、佳斗は参加者である男子プロ全員と会話。

 

 雄介の目論見通り、多くのトッププロと知り合えたのであるが、彼の本当の目的は佳斗ではない。


 師匠である佳斗がプロたちと歓談する間、暇になった瑠利は女子のプロたちに囲まれていたのである。








―――――――――――――――――――――


 お待たせいたしました。

 続きを再開です。


 といっても、まだちょっと微妙で、申し分かりませんが不定期とさせていただきます。


 10万文字、ちょっと厳しいかも……。


 





 

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