第19話 説教タイム
美里に連れられて、アプローチ練習場から戻った夏目姉妹。
そのまま事務室へ押し込められて、これから説教タイムである。
「それじゃあ、言い訳を聞こうかしら」
受付を兄に任せ、ドアを閉めての説教タイム。
その本気度に夏目姉妹は恐々とするが、どうやら理由を聞いてくれるらしいとわかり、少しホッとする。
そして、互いに顔を見合わせどちらが説明するか相談。
こんな時は姉妹であるから、言葉を発することなく意思の疎通もできるのだ。
その結果、先に口を開いたのは詩穂であった。
「えっと、カエデがね、ルリちゃんの腕を知りたかったみたい。たぶん、うちのゴルフ部が弱小だから、もし本当に上手なら、入部してもらおうと思っていたんんじゃないかな」
そう話す詩穂は、妹の意図を正確に理解していた。
ただ、やり方に問題があり、あれでは逆効果だとも思っていたが、めんどくさくなってスルーしたようだ。
その一方でカエデは……。
「ルリって、佳斗おじさんの弟子になるわけでしょう。だから、実力を確かめてから勧誘しようかと思って」
と、真っ正直に答える。
それがどんな効果を生むことか、まだカエデは知らない。
ただ、詩穂は「言い方!」と突っ込んではいたが……。
そして、数十秒の沈黙と、「ハァ……」という、疲れたような溜息。
これは本当に説教が必要ねと、美里は改めて思う。
「いい、カエデ。ルリちゃんはね、あの雄介さんが認めた逸材なの。それで兄さんに、指導を依頼したわけ。この意味わかる?」
「うん、ルリが上手いってことでしょう」
「そう。だからね、あなたが上から目線でモノを言っていい相手じゃないの。だいたい、全く相手にならなかったんじゃなくて」
「うっ……」
「ほらね。あの子はプロを目指しているの。あなたのような遊びじゃないんだから、そこを間違えたらダメよ」
「ごめんなさい」
「わかればよろしい」
と、ここまでは注意であるが、本番はここから。
「で、話は続きなのだけど。シホ、まだ言っていないことがあるでしょう?」
そう続ける美里は、やはり鬼の形相。
もちろん二人の母親なのだから、カエデのしでかしそうなことは、わかっていた。
「シホねぇ……」
「すまん、カエデ。私も怖いんだ」
そうして詩穂は、妹の不始末を洗いざらい話す。
その結果……。
「これは正座かしら」
「うっ、それは……」
「もちろん、放置していたシホも同罪よ」
「ああ……やっぱり」
と、スルーしたことを後悔した。
そして、二人とも冷たいコンクリートの床へ正座させられることとなったのである。
☆ ☆ ☆
一方、美里にドナドナされていく姉妹を見送った瑠利と陸斗は、流石に続きをする気になれなかった。
別に彼女たちが気になってというわけではなく、水を差されて白けたというのが正解だろう。
瑠利はせっかくサンドウェッジを持って来たんだからとアプローチ練習をするも、集中力を切らして、寄せはイマイチ。
陸斗も手持無沙汰な様子で、ボールを転がす。
そのため、どちらからともなく「「戻ろう」」と声を掛け、アプローチ練習場を後にした。
そして、受付へ戻ってきた二人が見たものとは。
開かれたドア越しに見える、カエデと詩穂の姿。
もちろん二人とも、冷たい事務室の床での正座である。
どちらも今日は短パンで来たため、無残な状況だ。
「痛そう」
と、瑠利が口にすれば、そこにいた美里はニッコリと微笑む。
「あら、ルリちゃん、戻ってきたのね。話は全て聞いたわ。ほんと、バカな娘たちでごめんなさい。これはそのバツだから、気にしなくていいわよ。それから、りっくん。お姉ちゃんたち、足がかゆいみたいだから、かいてあげてくれるかな」
と、それはもう、凍り付いたような笑顔でそう言った。
もはや、二人には母が悪魔に見えたことだろう。
陸斗も「ほんと! じゃあ、いく」と嬉しそうにし、「あ、ちょっと、やめて、リク」と詩穂が言えば、「ああ、リクちゃんまって、ムリ、ムリだから、ぎゃあああああああああああ」と叫ぶカエデ。
そして、重なるように倒れた死体が二つ。
ではないけど、流石に懲りたようだ。
ようやく許されたカエデは瑠利に謝罪。
「変な態度をとってしまい、ごめんなさい」
「あ、いえ、何か理由がありそうでしたから、大丈夫ですよ」
これではどちらが年上なのか。
そう悩む美里と詩穂であった。
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