第18話 受けて立つ

 カエデからの宣戦布告に、瑠利は戸惑いをみせる。


 これから勝負をするとして、何をするのだろうか。

 女の子同士でガチンコは無いだろうし、状況を考えればゴルフが妥当だが……。


 そう考えた瑠利は、その挑戦を受けることにした。


「勝負……、ですか? いいですけど、何をするんですか?」 


「そうね、ここはアプローチ練習場だから、アプローチ勝負にするわ。先に5勝した方が勝ちで、打つ場所は不公平が無いように、お姉ちゃんとリクちゃんに決めて貰うけど、いいかしら」


 と、想定通りの展開だ。


 これに瑠利も「いいですよ」と、即答。


 二人を見守っていた詩穂も、どうやら諦めた様子。


「わかったわ。私が審判ね。リクもそれでいいね」


「うん、いいよ」


 これで話は纏まり、いざ勝負。


 の前に、カエデと瑠利はゴルフクラブを取りに行く。


 瑠利の手持ちはパターだけで、カエデに至っては家まで取りに帰ったのだ。


 もう、すでにグダグダであるが、それでもわずかな時間で二人の戦いは始まった。




「じゃあ、最初はここね」


 まず詩穂が指定した場所は、グリーンから20ヤードほど離れたラフ。

 そこへドロップ(膝辺りにボールを構えて、落とす)して、ピンを狙う。 

 もちろん、勝負はパターまで。カップインして終わりである。


「私からいくわ。見てなさい」


 そう、強気な姿勢を崩さないカエデ。


 瑠利もここでのアプローチは初めてなので、どうなるか未知数だ。

 参考になればと、カエデのアプローチショットを見守るが……。


 結果は、酷いオーバー。

 予定より高く打ち出してしまい、ボールは跳ねてグリーンの端で止まる。

 およそカップまで15メートルのロングパットで、下手したらスリーパットまでありそうな状態だ。


「うそッ、あんなに跳ねるの? いつもと違うじゃない」


「うん、だってお父さんが、ルリ姉ちゃんのためにローラーかけて短く刈り込んだから、全然違うよ」


「……」


 陸斗からそう説明されて、カエデは絶句。

 さっそくピンチである。


 ただ、瑠利もまた最初とあって不安は残る。

 最悪でもカエデのボールの内側につければ勝機はあるが、そのショットは低い打ち出しでピンそば1メートル。

 これを難なく沈め、まずは1勝とした。

 さんざん陸斗とパター勝負をしてきたため、グリーンの状態は把握済みである。


 それに引き換えカエデはというと、これまで練習してきたグリーとは全然違い、高速であるため、全く距離感が合っていなかった。

 どうにかスリーパットで凌ぎ、瑠利が1メートルを外すことに期待するありさま。


 もはや勝負になっていないのだが、そこはカエデ。

 引き下がるはずがない。


「ふん、まだ始まったばかりよ。すぐに追いついてやるんだから」


 そんな強気の姿勢であるが、次の陸斗が選んだ場所は、バンカー内。

 その真ん中あたりを示して、「ここからだよ」と告げる。


 どうやら陸斗、もうめんどくさくなってきたらしく、早めに勝負を終わらせようと考えたらしい。

 これまで散々瑠利と勝負をしてきた陸斗にとって、結果は見ずともわかるというもの。

 なので、難しいところにすれば、早く終わるだろうと踏んだのだ。


 そして、この人も。


「ああ……、レベル差が有り過ぎね。これは無理だわ」


 と、もはやカエデだけが空回りといった状況。


 ただ、瑠利はその勝負を楽しんでいるようで……。


「今度は私からですね。先にびたっッとつけますから、見ていてくださいね」


 そういうと、宣言通りにピンそば50センチ。

 このバンカーはアゴも高くないため、低く打ち出した球が転がっていき、あわやという感じで通り過ぎたのである。


「「惜しいっ」」


 そう声をあげたのは陸斗と詩穂であった。


「もう、お姉ちゃん。どっちの味方なのよ」


 そう叫ぶカエデに、詩穂は……。


「えっ、何言ってるの? 勝手に勝負を挑んだあなたを、私が応援するはずないじゃない」


 と、正論で返す。


 これにはカエデも言葉なく、あとは散々だった。


 結局、5対0で、瑠利の勝ち。


 予想通りの結果であった。


 


 そして、締めはこの人。


「あら~、あなたたち、いつまでも戻ってこないと思ったら、何をしているのかしら」


 美里、鬼の形相。


「えっと、ちょっと、ルリとゴルフ勝負を…………」


「で、結果は惨敗と。シホ、あなたがついていながら、どういうことかしら?」


「ごめんなさい」


 もはや夏目姉妹、萎縮中である。


「もう、ルリちゃんごめんね。バカな娘たちで。あとで厳しく𠮟っとくから、許してあげて」


「はい、私も楽しかったから、あまり叱らないであげてください」


 それは瑠利の本心。

 けれど、そんな甘いことが許されるはずもなく……。


「うふふ、いいのよ。この子たちには、まだお説教が足りないみたいだから、気にする必要はないの」


 と、美里はニッコリ微笑む。


「しんだ……」


「はぁ……」


 そうして、お騒がせ夏目姉妹は、母親にドナドナされていくのであった。




 結局、カエデの思惑はわからずじまいであったが、瑠利は普段とは違う美里に驚いた様子。


「ミサトさん、怒ると怖いね」


 そう呟くと、陸斗は……。


「うん、でも……だいたいあんな感じだよ。カエデ姉ちゃんが変なことして、シホお姉ちゃんが巻き添えになるの」


「……ああ、そうなんだ……」


 あまりに見たままの光景とあって、瑠利も微妙な表情を浮かべていた。 



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