第30話 女子寮へのリフォーム開始と、新たなスタッフ
御殿場でのツアー競技を終えた大内雄介プロと神川佳斗は、翌日の午前中には宮崎入りしていた。
それというのも、プロゴルファーにとって月曜日は移動日。
翌火曜日からは練習ラウンドが始まり、木曜日には本戦と、あまり余裕がないのだ。
おまけに、キャディーの佳斗はこのコースのラウンド経験がなく、データ収集にも時間は掛かる。
となれば、少しでも早く現地に赴き、下見がてらに散歩というのがベストであった。
「なんだ、休んでいてくれても良かったんだぞ」
「いや、ここは私も苦手なコースだからね。二人で歩いた方が、研究も捗るだろう」
「まあ、お前がいいなら、構わないけどな」
そう話す二人の表情は、真剣そのもの。
というのも、ここ宮崎は、これまでに何度も海外メジャー選手が優勝争いを演じた日本屈指の難コースであり、今年も多くの有力外国人選手が参加する予定であった。
「風が吹いたら、けっこう厳しいな」
「ああ、我慢のゴルフになるだろうね」
この時の会話が、まさに現実となったこの大会。
賞金総額2億円。優勝者は4000万円と高額だ。
そこで雄介は再び優勝争いを演じたものの強風に悩まされ、終わってみれば五位タイでフィニッシュ。
二週連続
☆ ☆ ☆
ところ変わって、こちらは神川ゴルフ練習場。
宮崎では大内雄介と神川佳斗が厳しい強風と戦っているが、こちらでも美里が苦労していた。
というのも、ついに女子寮へのリフォームが始まったのだ。
予定通りではあったが、佳斗は雄介のキャディ―でいないため、対応するのは全て美里。
事前に業者との話し合いは済んでいるものの、いざ始まってしまえばトラブルは付き物だ。
本当に困った時は夜に兄と電話で話をするとして、そうでなければ判断するのは彼女である。
自分でリフォームを勧めたてまえ、泣き言など言ってられない。
「まあ、楽しくはあるのよね」
それが彼女の本心だった。
美里は管理栄養士の資格を習得しており、寮母となれば、それを生かすことが出来る。
まだ予定では瑠利一人だが、いずれは入居する人数も増えるであろう。
そうなれば、と期待を膨らませるものの、現状はまだまだ。
それよりも、彼女がリフォームへ関わっているため、練習場での人手が足りないのである。
娘の詩穂が手伝いに来たとしても、彼女は高校生。受験生でもあり、そう何度もというわけにはいかない。
そのための解決策として、パシオンゴルフガーデンから新たにスタッフを派遣してもらった。
「初めまして、
そう挨拶する彼女は森沢彩夏(19歳)といい、大内雄介プロの門下生だ。
赤茶けた長い髪を後ろで縛り、のほほんとした可愛らしい顔つきをした彼女であるが、その身体つきはプロのそれ。
少し小柄なものの、プロスポーツ選手特有の強靭な下半身の持ち主だ。
中校生の頃から大内雄介プロに師事し、学生時代からの実績もあって、プロテストに合格する日も近いとされていた彼女。
ただ、残念なことに、今年のテストでは最終で落ちていた。
それでも毎年合格者は20人。3%の狭き門であるから、最終プロテストまで残れた実力は、本物。
今後の期待値込みで、神川ゴルフ練習場へと派遣されてきたのである。
「ほんと、助かるわ。私は、夏目美里。よろしくね」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして渡会海未に続き、二人目の派遣となった森沢彩夏。
彼女の担当は朝。ボール拾い込みで平日は六時出勤。土日祭日は五時となっており、期限としては男子ツアーの最終戦までであるが、本人次第では継続もアリとの契約だ。
彼女レベルであれば、どこで練習していようと同じであるため、あえてパシオンゴルフガーデンに拘る必要はない。
むしろ、これを機に神川ゴルフ練習場に移ることで、佳斗という切り札を得ることが出来るのである。
今後プロテストに合格し、ツアープロへと進めばキャディー問題は必須。
となれば、師匠の大内雄介が認める優秀なキャディーである佳斗の下で働くことは、メリットしかないのだ。
「来年こそは、きっと」
彼女にそう思える理由ができ、そうなるように仕組んだのが、雄介であった。
―――――――――――――――――――――
第30話までお読みいただきまして、ありがとうございます。
明日はクリスマス。
ということで、次話は番外編となります。
クリスマスのお話は後日ですので、今回は可愛い子供たちのお話です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます