第32話 クリスマス飾り

 十二月に入り、男子ツアーの最終戦を終えた翌週火曜日の夕刻。

 神川ゴルフ練習場では、クリスマスの飾りつけを行っていた。


「ねえ、お父さん。これはどこに付けるの?」


 陸斗は金色の大きなお星さまを手に持ち、父に尋ねる。


「ああ、それはね。モミの木のてっぺんに付けるんだよ。でも、私じゃ届かないから、陸斗、肩車をするから付けてくれるかい?」


「うん!」


 練習場の入口から入ってすぐ。受付の隣に置かれた高さ二メートルほどの、モミの木のてっぺん。

 そこへお星さまを付けるとあって、陸斗はわくわくしながら、父の肩車を待った。


「じゃあ、持ち上げるからね。バランスを崩さないように、気をつけるんだよ」


「うん、だいじょうぶ。壁に手をついてるから」


「ははは、そうだね。じゃあ、いくよ」


 佳斗は可愛い息子が落っこちないようにと、様子を見ながら慎重に立ち上がる。


 陸斗も、「あっ」とか「おっ」と声をあげながらも、急に高くなった視界を楽し気に眺めていた。


「すごい! 高くて、よく見えるよ」


「そうだろうね。でも、周りを見てばかりいないで、お星さまを付けちゃおうか」


「あ、そうだった。この辺でいい?」


 普段とは全く違う視界に夢中で、すっかり目的を忘れていた陸斗は、慌ててお星さまを掲げて取り付ける場所を尋ねる。


「そうだねぇ……。いいんじゃないかな」


「わかった。じゃあ、ここに付けるね」


 そう、父からの承諾を得て、陸斗はお星さまをモミの木のてっぺんに取りつけようと手をのばした。


 方法はいたって簡単。お星さまからは取付用に長い棒が出ていて、それを木の幹に結束バンドで括るだけだ。

 問題となるのは、その取り付け棒が見えない位置で、下過ぎてお星さまが枝に隠れてしまうのも違うし、かといって飛び出ていたらカッコ悪い。

 丁度いい位置とはどこであるか。

 それを子供の陸斗では決めかねていたのだ。


 それでも、お星さまは無事に取りつけ完了。

 佳斗はせっかくだから高いところの飾りつけも済ませてしまおうと、ツリー飾りをいくつか頭上の陸斗に手渡し、そのまま作業を続行。


 父子二人で楽しく飾りつけを行っていた。





 一方、練習場の窓に飾り付けを行うのは、瑠利とカエデ、詩穂の三人である。

 女の子らしく可愛いらしいデザインになるよう期待してのものだが、実に怪しい。

 

「ちょっと、これって反対じゃない」


「えっ、おねえ。こっち向きじゃないの?」


「違いますよ、カエデさん。それだと外からは反対に見えちゃうから、そっちが正解です」


「ええーーっ」


 とまあ、こんな具合にカエデが搔き乱すから、ちっとも先に進まない。


 やっていることは既存の文字を綺麗に張るだけ。

 色のバランス等は彼女たちに任せてってことなのだが、苦戦中である。


「これって、もしかして……、一人は外から見た方がいいんじゃないかしら?」


「あっ、そうかも。ルリ、外に回ってくれる」


「はい、カエデさん。少し待っててくださいね」


 と、どうやらそんな重要なことを今更気づいたようであるが、外へまわった瑠利は、その出来栄えに愕然とした。


「シホさん、カエデさん、すっごい歪です」


「うそっ」


「ああ、マジか……」


 こうして三人は最初からやり直しとなり、がっかりした様子。

 

 けれど、そんな失敗をしても楽しそうに笑う彼女たちに、練習場に来ていたお客さんたちも、微笑ましい気持ちになるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る