第14話 パター勝負の行方

 陸斗と瑠利は、それぞれ自分のパターを手に、アプローチ練習場のグリーンへとやってきた。


「どう? すごいでしょう。お父さんがローラーかけて、刈り込んでくれたんだよ」


「うん、先週とは全然違うね。高麗だけど、速そうだよ」


 瑠利は真剣な様子で刈り込まれたグリーン面に手を当て、その感触を確かめる。




 ゴルフ場のグリーン芝にはベントと高麗があり、現在は洋芝のベントが主流だ。

 けれど、ベント芝は暑さに弱いという欠点があり、近年の異常気象による環境の変化で、夏場を凌ぎきれなくなっているというのが実情。

 そのため、昔のように暑さに強い高麗芝へ戻すゴルフ場も出始め、このままベント芝の品種改良が進まなければ、この流れは一気に加速する可能性さえあるが……。

 問題は、高麗芝は難しいと、客層から敬遠されていることだ。


 見た目の傾斜通りに転がり、タッチも合わせやすいベントに比べ、芝目の影響を受けやすい高麗芝は非常にラインを読みにくい。


 おまけにショットやアプローチのボールも、ファーストバウンドで跳ねてしまいスピンもかかりにくいとあって、より難しく感じられるのだ。


 けれど、高麗芝の攻略方法さえ知っていれば、実は簡単だったりする。

 高麗芝の葉は大きく、その上を転がるボールは曲がりにくいのだ。

 代わりに芝目や傾斜の影響もあって、弱くなってから急にブレーキがかかったように曲がるため難しく思われがちだが、ベントに比べ高麗芝は転がりが悪い。

 その理由もやはり葉の大きさや硬さによる摩擦の違いにあり、多少打ち過ぎても転がり過ぎるというリスクは少ないのである。


 要は、高麗芝は強めに真っすぐ。

 ついでに言うと、アプローチでは高く上げずに、転がしが基本。


 これさえ守れば、高速になりやすいベント芝のグリーンより危険も少く、スコアーが出しやすかったりするのだが、あくまでもこれはアマチュアレベルでの話。

 プロの競技ともなると短く刈り込まれ、葉も小さく立ちやすいため芝目もキツく、そのうえ傾斜も急で、全くの別物へと変化するのだ。


 もともと高麗グリーンは重いという理由で傾斜をキツクしてあるのだから、それを刈り込めば当然のこと。


 そして、佳斗が仕上げたこのグリーンも、そんな感じであった。


 

 

「僕はもう練習して、この速さには慣れてるからね。今日は絶対に勝つよ」


「へえ~、そうなんだ。でも、私だって負けないよ」


「「じゃあ、勝負だ(ね)!!」


 こうして、どちらも負けん気が強いため、白熱した展開へ。


 ルールは簡単。

 互いに指定した場所から交互に打ち、打数の少ない方の勝ちだ。


 パットの距離を長くするか、短くするか。


 それが駆け引きであり醍醐味でもあるが、すでにグリーンを経験済みの陸斗は先手必勝と、10ヤードの距離を選択。

 それも傾斜が急な下りのラインで、慣れない瑠利がショートするのを期待してである。


「ぼくから打つね」


「うん」


 その陸斗の一打目の結果は、距離感ピッタリのカップ右50センチ。

 ただ、パット勝負の基本はワンパットであるため、外してしまっては意味ないが……。


「よしっ」


 と、小さくガッツポーズを決める陸斗。

 このグリーンでの経験が無い瑠利なら、スリーパットはあり得ると踏んだのである。


 けれど、それは甘いというもの。


「やるね、じゃあ私も」


 そう、気合を入れた瑠利のパットはカップ手前1メートルと、ややショートだ。


「それを外したら僕が勝っちゃうよ」


「ふ〜ん、作戦だったわけね。でも……」


 そうはいかないと、瑠利はそれを難なく沈め、このホールは引き分けに終わる。

 この勝負は決着がつくまで何度も行われるので、次は瑠利が打つ場所を決める番だ。


「どうしようかな……。リクトくんは長い距離のタッチが合っているみたいだから、逆に1メートルとか嫌だよね」


 そう判断した瑠利は、傾斜のキツイ真横から1メートルのフックラインを選ぶ。


「ふふふ、お先に」


 と、これを簡単に沈め、陸斗の結果を待つが、流石に練習したというだけあって、外さない。

 ボールはカップをクルリと回ったけれど、無事にカップイン。


「あぶなっ。でも、決めたからね。次はぼくだよ。ルリ姉ちゃんの失敗しそうなところは……」




 こうして交互に続けたパッティング勝負の行方は6回戦まで続き、徐々にグリーンの速さに慣れてきた瑠利が8メートルのロングパットを沈め、彼女の勝利に終わる。


「ああ、負けちゃった。ルリ姉ちゃん、うますぎるよ」


 そんな不平を漏らす陸斗であるが、何故か嬉しそうだ。

 先週リフティング勝負で負け、今回はパター勝負で負けた。

 それでもこうして勝負ができ、すごく楽しいのである。


「もう一回やろう」


と、再び勝負を挑み、善戦の末、また負ける。


 それを何度か繰り返していると、佳斗が二人を呼びに来た。


「ルリちゃん、お母さんが帰るそうだから、見送ってあげて」


「はい、わかりました」


「あ、僕も行くよ」


 こうして三人揃って遥を見送り、瑠利と陸斗はまた遊びに戻るのであった。


 明るく照らす練習場のライトのおかげで、暗くなっても遊べるのである。




―――――――――――――――――――――――



第14話までお読みいただきまして、ありがとうございます。


一つ注意事項ですが、ベント芝と高麗芝の解説は、若干主観が入っております。

ネットで調べたものが全て正解というわけではありませんの、間違ってるかもです。

申し訳ありませんが、ご了承ください。


物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

 


  

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