第10話 新しいスタッフ

 翌日の午後1時。


 神川ゴルフ練習場には、新しくスタッフとなる女性が訪れていた。


「初めまして。パシオンゴルフガーデンから派遣されてきました、渡会海未わたらいうみです。平日の13時から21時まで勤めさせていただきますので、よろしくお願いします」


 そう恭しく頭を下げて挨拶をする女性は、渡会海未(24歳)だ。

 長いストレートの黒髪で落ち着いた雰囲気を纏う女性であるが、実は背の低さからか、年齢よりも若く見えることがコンプレックスだという。

 平日に街中を歩いていると職質を受けることも多く、身分証を持ち歩かなければならないと嘆いていたりもした。

 世間では大人びた高校生とでも思われているのだろうが、本人にとっては困った問題なのである。


 と、そんな彼女であるが、パシオンゴルフガーデン(大内雄介プロの経営する練習場)では主に受付を担当していた。

 仕事に関していえば落ち度もなく、協調性に欠けるなどということもない。

 接客態度も申し分ないし、むしろ何でこちらに回されてきたのかと不思議に思うほどだ。


 けれど、雄介が神川ゴルフ練習場への派遣希望者を募ったところ、海未が真っ先に手を挙げた。

 というのも、彼女は大の子供好き。そのため、募集要項に『小学生のお子様がいるので、その子の相手も出来る方』と書かれていたので迷いはなかったようだ。


 今朝からここへ来るのを楽しみにしており、今は平静を装っているが、内心はソワソワしているのである。


『早くお子さんに会いたい』


 そんな願望を隠し相手の出方を待つが、当然そんなことは佳斗たちの知らぬこと。

 むしろ、佳斗自身は好感を抱いているようだが、美里は……。

  

「はい、こちらこそお願いします。私はここを経営する神川佳斗。そして、こちらが妹の……」


「夏目美里よ。よろしくね」


 美里は兄からの紹介を遮って、自ら名を告げる。


 前日に雄介から聞かされてはいたが、海未の見た目は娘たちとそう変わらない。

 落ち着いた雰囲気にも好感が持てて、特に問題もなさそうだ。と、思いはするが……、何か引っかかる。

 それが女の勘というのであれば、鋭いというしかないが……。 


「雄介さん、を紹介してくれたみたいね。娘たちとも話が合いそうだわ」


「ああ、遅い時間までいてくれるのも助かるし、ルリちゃんと面識もあるみたいだからね。雄介には、ほんと感謝かな」


 美里の反応とは違い、佳斗は何も感じていない様子。

 これは男性から見る女性像が甘々だからといえるが、同性同士は厳しいもの。

 ただ、それでも美里の感じている違和感の正体がわからない以上は、これまでだ。

 

 顔合わせも終わったので、まずは仕事である。

 海未は美里に教わりながら、業務に就く。


 彼女はこれまで大手のパシオンゴルフガーデンに勤務していただけあり、基本は出来ていた。

 あとは受付だけでなく、全ての業務を熟せるようになれば助かるが……。



 そこへ、授業を終えた陸斗が、学校から帰ってきた。


「ミサトおばさん、こんにちわ」


「あら、こんにちは、りっくん。早いのね」


「うん、今日から新しい人がくるって聞いたから、急いで帰ってきたんだ」


 と、元気に報告。


 その会話を受付で聞いていた海未は、何故か目を潤ませていた。


 活発で幼い見た目の少年。

 こんな可愛らしい子の面倒を見させてくれるなんて、ここは天国かしら。

 

「たすかる~」


 と、うっかり漏れ出た声は、誰に届いただろうか。

 幸い美里たちに反応はなく、聞いていたものはいなかった。


 そして彼女は……。


『ハァァァァ……、ヤバすぎるわ。私はだから大丈夫だけど、他の人たちに知られたら大変なことになるわね』


 と、どうやら面倒な体質であるらしかった。

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