第2話 翌朝

 ゴルフ練習場の朝は早い。


 というのも、ゴルフ場でのトップスタートは平日なら八時、土日祭日なら七時が一般的であるため、スタート前に少しでもボールを打ちたいというお客さんを見込んで、営業を早めるのだ。


 せっかくコースへ出るのなら、少しでも良いスコアーで上がりたい。


 それがプレイヤーの心情であるが、ゴルフ場ではそのコースの都合により、練習場の無いところも少なくない。

 朝の硬い身体をほぐし、打感を確かめるだけなら、三十球程度あれば十分だ。

 けれど、近場の大きな練習場は料金も安いぶん、その日にプレイのないお客さんも多く訪れ、なかなか打席が開かないというのが実状である。


 そのため、個人経営であり、一球十円と割高感のある料金設定ではあるが、その分回転率も高い『神川ゴルフ練習場』へと、人は流れてくる。


 なんせ、たくさん打ちたいのであれば、格安の練習場へ行けばいいだけだ。

 安いところであれば、一球六円くらいのところもあるであろう。


 それでも少しはボールを打っておきたいという人たちが大勢いるわけで、神川ゴルフ練習場の稼ぎ時は、この時を置いて無いのであった。



☆ ☆ ☆



 時刻は朝の五時。


 季節はゴルフシーズン真っ只中の十月ということもあって、六時には営業を開始する予定である。

 

 近場のゴルフ場には練習場も完備されているが、ボールを飛ばせる距離も短く、打席数も少ないため順番待ちを嫌がり、ここに朝早くから常連さんが訪れるのであった。




「おはよう、ルリねえちゃん」


「あ、おはよう。リクトくんも早いね」


「うん、もう慣れたから」


 洗面所でバッタリ会い、互いに挨拶を交わす二人。


 昨日、あれから色々あって、瑠利はお泊りしていた。


 というのも、本来であれば今日、両親と共にここを訪れる予定であったが、一人で暴走し、勝手に来たのである。


 佳斗が事情を聞き、紹介者の大内プロや彼女の両親に連絡。


 すぐさま話し合いになったが、大内プロからは練習場へ支援の申し出があり、瑠利の両親からは娘の意志を尊重したいと押し切られ、現在に至る。


「僕、先に行くよ」


「あっ、待ってよ。私もすぐに行くから」


 簡単に顔を洗い駆け出していく陸斗を、瑠利が追いかけていく。


 二人がこんな朝早くから起き出している理由は、ボール拾いをするためだ。


 練習場にとってボールは命。

 お客さんがいるのにボールが無いなんてことは、もちろん論外。


 けれど、営業中にボール拾いは難しく、午後九時の閉店後も仕事はある。

 そのため、朝早くから起き出して、開店前までにボール拾いを済ませようというのだが、一時間というのは長いようで短い。


「父さん、おはよう!」


「師匠、おはようございます」


「ああ、二人とも、おはよう。朝早くから済まないね」


 陸斗と瑠利は五時からだったが、佳斗はすでにボール拾いを始めていた。


 昨日は夜遅くまで帳簿関連の記帳をしていたことを考えれば、睡眠時間はどのくらいであろう。


 それでも、朝九時を過ぎれば、妹が手伝いに来るため、それまでの辛抱だ。

 あとは彼女に任せて、休憩できる。


「じゃあ、そっちを頼むね」


「うん!」


「はい!」


 二人は佳斗からの指示に元気な声で応えると、ボール拾いを開始。


 ボールを拾う方法は様々あるが、ここではブラシ付きのレーキを使用していた。


 練習場の地面には人工芝が貼ってあり、所々にボール回収用の溝や穴が開いているため、そこへブラシ付きのレーキでまとめて押していき、放り込めばいいのだ。


 ボール拾いとは名ばかりの体力勝負の方法ではあるが、初めて扱う瑠利もすぐに慣れ、六時前に作業は完了。


 佳斗はお客さんを出迎えに、陸斗と瑠利は朝食へ向かった。








―――――――――――――――――――――――


第二話をお読みいただきまして、ありがとうございます。


ここから、ゴルフの専門用語や知識的なものが度々出てきますが、先に言わせてください。


『これは、僕の個人的な見解であり、事実を確定するものではありません』


これがプロゴルファー監修とかであればいいのですが、素人作家にそんな伝手は無いのです。


そのため、現実とは違うことも多々あると思いますが、フィクションですのでこの世界ではこう、みたいな感じですかね。


わたしの方でも、あからさまに変な部分は修正していくつもりですので、ご了承願います。



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