始まらない物語

 某自主企画さまに参加したいなあ、と思いつつ『(まだ)存在しない物語の後日談・番外編』を書くのって難しいですよね……? まず本編の設定をしっかり考えておかなければ後日談や番外は書けないわけで、本編の設定ができたら本編を書きたくなっちゃう。

 今まで考えたプロットで公開していないものもあるにはあるのですが、時代ものばっかりなので短編に落とし込めないし、雰囲気がダーク過ぎてしまう。うむむ……まだ書いていないと言えば……『サザンクロス・ナイツ』の三部以降とか? ちなみに『サザンクロス・ナイツ』は一部が豪州編、二部が日本編、三部:マレーシア編、四部:オーストリア編、五部以降各国編となる予定でして、マリーの過去やインシャという人物について、酒船石の秘密など回収しなければならない伏線(?)も盛りだくさんなのですが、まだ二部も書き終わっておりません。

 結局インドネシアの術士ナイト、カジャに関する番外編をここまで書いてまた挫折しました……カジャはバリに生まれた大変力の強い術士なのですが、そのために子どもの姿から変われなくなってしまいました。六部に登場予定です。それまでにはウロと秋人の関係性や、秋人の力も変わってきているはずです。


〜〜〜〜〜〜〜〜


 波に足を浸して、私は立ち竦んだ。空には夕月、潮が満ちてくる。流された珊瑚の欠片かけらがからからと鳴る。紺碧の水平が日没の残光で焼かれて、鉛のようにくすんでいく。

「What are you seeking? 」

 気持ちが焦るばかりで何をしたらいいか分からない。ふいに声を掛けられて、私は驚いて振り返った。波打ち際に男の子が立っている。真っ黒な瞳が仄かに瞬いて、柔らかそうな髪を潮風に靡かせ、こちらへ歩いてきた。

「指輪を落としてしまって」

「珊瑚のなかに?」

 この浜辺は砕けた珊瑚が積もってできている。もともとサイズのあっていなかった指輪が、落ちて紛れてしまうのは容易なのだ。少年は大きな目を瞬かせると、ちょっと待ってて、とジェスチャーして岩陰に駆けていってしまった。私は我に返り、しゃがんで白い礫を掻き分ける。おばあちゃんから貰った指輪、せっかくここまで来ることができたのに。自分の不甲斐無さに泣きたくなる。

「僕らが見つけてあげる」

 からからころころと指の間を無邪気に転がっていく欠片を掻きまぜていると、蜜色の肌をした小柄な手が伸びてきて、擦り切れた指先を掴まれた。顔を上げると先刻の少年と、その背後にもう二つ人影が黄昏に佇んでいる。

「指輪を無くされたと伺いました」

一人が日本語で低く囁いた。眼鏡越しの瞳は優しげだが、どこか底が知れない。年の頃は私と同じか、三十を過ぎたくらいだろう。その傍らでこちらを睨むような視線の青年は、ティーンのような面持ちだが、長い手脚にしなやかな筋肉が成熟した印象を与える。

「突然すみません、私たちも探し物をしておりまして」




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おいでませ異郷の地 田辺すみ @stanabe

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