パルテノンの猫
書くことも描くことも停滞気味です。創作に向けられる集中力は、全て技能学校の課題に吸い取られているようです(集中力はもともとあまり無いですしね……)。好きなことを仕事にしている方々は、脳/精神力の同じ部分を、本来休み(好きなことをする時間)と労働の時間で分けられるはずが、ずっと使い続けているっていうのも大変なんだろうなあ、と気付かされました……
『パルテノンの猫』
仕事と人間関係に行き詰まり、辞職して貯金をはたいて、憧れのギリシャへやってきた。美しい遺跡の数々、穏やかな気候、カラフルな街並み、気の良い人々。ところが何日と経たないうちに、財布をすられてしまった。
途方に暮れた夕方、パルテノン神殿の辺りを歩いていると、『そこの日本人』と声を掛けられた。見渡しても薄暗がりのアクロポリスの麓には、人影も無い。ただ、燃えるような紅い長毛の猫が、石段の上に鎮座しているのみだ。
「どなたさま?」
「ほほう、儂を信じられるか。儂はヴェネツィア共和国総督(ドージ)のフランチェスコ・モロッシーニ」
金色の目を細め、髭を揺らしにやりと笑う。ヴェネツィア共和国?何時代の話をしているのやら。
「……なんで猫なんです」
「女神アテネの呪いだ」
「悪いことしたんですか」
うむむ、と伸びて猫は眉を顰めた。赤銅色の毛がふさふさと風に揺れる。
「パルテノン神殿を破壊した」
私は後ろを仰ぎ見た。いつも工事中みたいなパルテノン神殿、この人(猫)の仕業だったのか……
「そもそも火薬庫なんぞにしていたオスマン帝国が問題だ」
「責任転嫁しないで下さい」
「それよりも、お前の財布を盗んだ奴を見掛けたぞ」
……それからモロッシーニ卿とスリ集団のアジトを暴き、挙げ句の果てに、行方不明のオスマン帝国財宝を追って、ヨーロッパ中を駆け回るハメになるとは、誰が想像できようか。
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