ナリタ活

最近、新しい小説を書くために、勉強が足りていないと感じます。もっと読むべきだし、読みたいのですが……


***


 やっぱり駄目だ。私は明るい照明に冷えた壁に背をつけて座り込んだ。

 分からない。

 真夜中の空港ロビーをまばらに通り過ぎる旅行者は、床の隅で脚を抱えた私を訝しげに見ていく、ような気がするのは私のセンチメントのせいだろう。


 私は半分日本人だ。だけど日本語はちょっとしか分からない。

 母が日本人で、父はオーストラリア人。ブリズベン育ち。家でも学校でも英語を話してきた。両親は離婚して、女手一つしかも外国にいた母は忙しく、私に日本語を教える余裕は無かった。母のせいではないし、“外国語”を学ぼうとしなかった私の問題だ。

「どうしました」

 ふいに、声をかけられた。顔を上げると日焼けに短く髪を刈った体格の良い男性が、背を丸めてこちらを覗き込んでいた。旅行客でもなく、空港職員でもないらしい男性はなんとも怪しいのだが、私は思わず泣き言が口を突いて出た。

「フライトが遅れてえ……電車もバスも間に合わなくて」

「昨今は仕方ないことですね。勘弁してやって下さい」

「タクシー高いし……予算ギリギリで来たから」

「あなたはどこから」

「オーストラリアです。でも私、“ハーフの日本人”なんです、けれど交通とか表示とか地名とか分かんなくて」

 向こうでアルバイトをしてお金貯めて一人で来たんです。だって私、半分日本人なのに日本のこと全然知らない。友達みんな、日本は素敵なところね、って言ってくれるのに、私は何にも知らない。

「私が送っていきましょう、ホテルですか、ホームステイ?」

 男性は腰を上げて、手を差し伸べてくれた。私は戸惑ったが、男性の笑顔は優しそうだった。そう、あれ、美術館の特別展で見た、あ、アルカ…イック?・スマイルみたいな。


「ご不動!」

 考えあぐねていると、ドアホールの向こうから子供が二人駆け出してきた。

「また空港ふらふらして!」

「色んな国の人と話すと楽しいぞ」

「お山にだって大勢いらっしゃいますでしょうが……」

 三人は喧々諤々喋り出す。私は呆気にとられていたが、男性がくるりと振り向いた。

「取り敢えず、ウナギ食べにいこうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る