みそきん物語
ぬるま湯労働組合
第1話 貴公子たち
「姫と結婚したいのなら条件がございます」
屋敷の老主人が5人の貴公子たちに向かって言った。
「条件だと? それは姫がおっしゃったのか」2番目の貴公子、
外車持の色情魔め、黙っていろ。と、
はい、と答えて、屋敷の老主人は5人を見回した。
もとは貧しい竹取の翁で、ほんの三月前に財産を得たばかりの成金だと聞くが、装束が新しすぎる以外に不自然な点はない。穏やかな老人だと石頭の皇子は思った。
「『とあるもの』をお持ちになった方と結婚する、と姫は申しております」
老主人の言葉に、貴公子たちがどよめいた。
石頭の皇子は、老主人のもったいぶったような話し方をじっと聞いた。つまり、姫は贈り物を欲しがっているということだ。絶世の高貴な美女であっても所詮は女。適当な和歌と派手な贈り物さえ用意できればころりといくものだ。
皇族である自分に用意できない品などあるはずもない。石頭の皇子は、他の4人の誰よりも先に贈り物を手に入れ、姫と結婚するつもりでいた。どうしても姫を手に入れたかった。
「その『とあるもの』とはなんだ?」
3番目の貴公子、右大臣
「私も『それ』が何であるかは存じ上げませんが」と前置きをして老人は口を開く。
「姫は『みそきん』なるものを皆様方に求めております」
「『みそきん』、か。聞いたこともないな。どんな宝玉なのだろう」
4番目の貴公子、大納言
「宝玉ではないかもしれませんぞ。珍しい生き物か、それとも福を招く縁起物の類か」
末席に座る5番目の貴公子、中納言
「ええい、面倒くさい。そんなものをわざわざ探さなくとも、この中で最も身分の高い私と結婚すればよいではないか」
2番目の貴公子、外車持の皇子が言った。
石頭の皇子にとって、外車持の皇子は同年代の皇族であり、最も鼻持ちならない存在でもあった。さっさと「鼻持の皇子」か何かに改名したらどうだ、と石頭の皇子は意地悪く考えた。
老主人は首を振る。
「姫が求めておりますのは、財産でも名誉でもなく、『みそきん』ただ一つでございます。伝言は以上でございます。日が暮れるまでにお帰りください。
手抜の御主人、海難事故の御行、時駆の麻呂の3名は、急いで各々の
外車持の皇子は、老主人の用意した
最後に屋敷の門をくぐった石頭の皇子は、ふと後方を振り返った。満月の照らすこの屋敷のどこかに、姫はいる。
そう考えると、石頭の皇子の股間がどうしようもなく硬くなった。
石頭の皇子は女を愛することができない性分だった。八方手を尽くし、あるときはまじない師に頼み、何年も神頼みを繰り返したが、それでもどうしても女という生き物に興味を抱くことができなかった。
結婚し、子孫を残すことができなければ、家が途絶えるどころか自分の出世すら危うい。
どうしたものかと思案していたある日、石頭の皇子はけたたましい泣き声を耳にした。そっと部屋を覗き込むと、乳母が赤子に乳をやっているのが見えた。
赤子の小さな唇、ぎこちない丸い手のひらを見た瞬間、石頭の皇子の下半身に龍が降りて来た。大量の血液が股間に集中し、石頭の皇子は悲鳴を上げてその場で果てた。彼の精通であった。
石頭の皇子は、赤子にしか情欲を抱くことのできない人間だったのだ。この世の
やはり自分は子孫を残すことができないのだろうか。半ばあきらめかけていたとき、石頭の皇子は姫の噂を耳にした。
都のはずれの屋敷に、絶世の美女がいるらしい。たった3か月で赤子から大人にまで成長し、貧しい竹取の翁に財を築かせたのだと。
生まれてから3か月。その事実は、石頭の皇子を興奮させた。姫は、天が自分に遣わしてくれた天女なのだと思った。
なんとしてでも姫を手に入れたい。姫が穢れてしまう前に、なるべく早く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます