冒険者の夢

月島 ギイ

集団転移

第1話 - 集団転移




南アメリカ大陸 - ブラジル 23時



散らかした暗い部屋に一人の男性がいた。


「うーん」


仕事が終わった時からそいつはパソコンで趣味の小説を書こうとしていたが、まだタイトルしか出来ていない。


【冒険者の夢】


「いいタイトルだな」


書きたい物語はもう決めている。異世界もので、自分を主人公に仕立てたものだが、いざ書き始めると恥ずかしくて戸惑っている。


(変にかっこつけなくて、"こういう時に自分ならこうする"っという風に書きたいけどなあ)


数時間前からこうして一文字も書いていないが、ついに最初のセリフを決めた。


[異世界に行きたい]


(普通だな)


「まあ、いいか、後は自己紹介だ。続こう………ん?」


(なんか静かすぎないか?)


悩みまくった後、続きを書こうとしたが、いつも騒がしい家の外から音一つも聞こえてないことに気づいた。


ブラジルではこんな深夜でもあっちこっちで人の声がするものだ。


「えっ!?……なんだこれは!?」


なんとパソコンの前に座っている俺の右隣に光の線が現れたと思ったら、その線が広がり、白く輝く扉になった。


体が固まり、思考が止まり、ただその扉を眺めることにしか出来なかった。

数秒後、頭が再起動していく。馬鹿みたいな顔をしながら席を立ち、おっかなびっくりにその扉に近づいた。


「………」


緊張しすぎて、呼吸まで止まりそうだが混乱している頭では考えることは一つだけだ。


(チャンスだ!見逃しちゃだめだ!)


わけがわからないが、ファンタジーものが好きで、子供みたいに非現実的なものを夢見た俺はこの扉を見逃しちゃだめっとだけはわかった。


(見逃すか!!)


動けずに震えていたが、やることが決まった俺は勢い良く扉を開けて、中の眩い光へ飛び出した。




◇ ◇ ◇ ◇




「あれ?皆、誰か来たよ!」


(………マジか)


光の扉の向こうはなんと、広くて真白な部屋だった。

だけど、一番驚いたのはそこに他の人もいることだった。


30人以上もあるようで、集まっていた全員はいきなり現れた俺の方を見た。


(学生?ていうか全員日本人?)


そいつらは漫画でしか見たことのない学生の制服を着て、見た目から高校生と見た。


「外国人?」

「そうみたいけど…」


(お、日本語だ!やっぱり日本人か)


驚きながら、俺は状況への既視想を感じた。


(やべえ!あれか⁉漫画でよくあるクラス召喚ってやつ⁉)


あからかに俺を怪しんでいるだが、それ以上に誰も何も言わない。


「ん?」


挨拶をしようと思ったが、俺たちのいる部屋の真ん中に変なものが現れた。


「自販機?」


学生たちは俺から視線を外し、その変わった自販機の方を見た。


「いや、自販機じゃなくてガチャみたいだ」


機械に近づいた男子がそう言った。その言葉を聞いて、学生たちもガチャに近づいた。俺も少し近づき、全員でその機械に書かれていることを読んだ。


「えーと…天恵スキルガチャ?勇者への贈り物?」


「一人ずつガチャを回して、天恵スキル?を貰えるって書いているよ」


「回し終わった後は全員で違う世界へ旅立つみたい、わけがわからない」


「うおおお!!これは異世界転移じゃないか!?」


(マジか!)


戸惑っている人もいるが、漫画とかで見た展開にテンション上がっている人もいる。もちろん、俺もだ。


(どうしよう?状況の説明をする人はいないし、ここは回るしかないのか?)


考えていると、一人の男子が声を上げた。


「俺は回るぜ!」


異世界にテンションを上げていた一人だ。そいつはガチャに近づき、虹色に輝くボタンを押した。


ポン!


変な音をして、ガチャの中がグルグルと動いた。それが止まり、銀色に輝く画面に【SR-Super Rare】という言葉が書かれて、ガチャマシーンの下にある穴から銀色と鉄色のガチャボールが出てきた。


「これにスキルがあるのか?」


その学生はそれを手に取り、ゆっくりと開けた。そうするとボールが消えて、学生の前に青い画面が現れた。


「おおお!天恵スキル:火魔術適性と魔力増幅?って出ているよ」


俺にはその画面に何も書いていないように見えるけど、彼には見えるみたいだ。


(あ、そうだ! ステータス!)


混乱して忘れてたけど、漫画や小説の話ではこういう時にステータスなどと言うとゲームみたいに自分の能力値を見せる画面が目の前に出るんだ。


「ステータス」


(ステータス?)


………

……


何も起こらない……


声に出しても頭の中で言っても、更に違う言葉や違う言語で試しても何も起こらない。


(まあ、ガチャを回す前では使えないってだけかもな)


そうしている間にも学生たちは次々とガチャを回していく。

みんなのスキルの名前がギリギリ聞こえるまでに距離を取り、自分の番を最後になるように成り行きを見守った。


ガチャマシーンに書かれているが、どうやらガチャゲームみたいにガチャボールのレアリティがあり、一番下からの順はこうだ:


鉄色:【C-Common】

大体は魔力増幅、視力増幅、筋力増幅などの能力を上げるもの。


銅色:【R-Rare】

こっちは体術適性、武器術適性、記憶力増幅、鑑定、鍛冶術適性

気配察知、罠察知っという職人向きのスキル。


銀色:【SR-Super Rare】

こっちで出たのは火魔術適性、土魔術適性、風魔術適性、水魔術適性、回復術適性と支援魔術適性。それからアイテムボックス、瞑想、硬化などとちょっと特別な感じのスキルだった。


金色:【SSR-Special Super Rare】

最初の学生のように大体の人には複数のガチャボールが出た。例えば剣術適性と一緒に筋力増幅や器用さ増幅が出るとか。中では2つや3つのSRが出た人もいる。だけど金色、SSRのガチャボールを出したのは8人だけだった。天恵スキルの名前を隠した人もいるが、スキル名を公開した人のは結構特別な感じのスキルだった。


公開した人のスキルは:


召喚術適性

結界術適性

転移術適性

経験値 1.5X倍増

ドロップ率 2X倍増


虹色:【LE-Legendary】

そして一番レアリティの高い虹色。

金色のレアリティは凄く高いが、虹色は格別だった。

37人もの学生がある中、この色のガチャボールを出したのは…………







0人




そう、ゼロだ。


知らない人はともかく、異世界ものの漫画やアニメが好きな学生は自分が虹色を出して無双する!っと期待をするだろう。だけど37人がガチャを回し終わり、期待していた学生たちは結構落ち込んでいる。


俺もそうだ。自分じゃなくても、学生の中から数人が虹色を出して、とんでもないスキルで勇者とか、賢者とかになるだろうなっと思ったが。全く想定外だ。


(いや、そうだ。漫画みたいなことが起きているが、ここは現実だ。必ずしも俺のしている展開になるわけがない)


っと、考えながら問題から目をそらした。

そう、学生は虹色を引かなかったが、俺はまだガチャを回していない。




つづく


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る