Destruction=Install

ennger

1 ボロ小屋

 ジリリリリリリリリ!!


 スマホの目覚ましが鳴り響く。


 一人暮らし用の狭い部屋、ベッドが設置されているが、何故か男は床の上で雑魚寝をしている。


「うっ・・・・あ、朝・・・・」


 手探りでその辺に置いてあるスマホを探し、アラームを止める。


「・・・・・・7時20分・・・・」


 あと少し寝れるか?あーいや、面倒だ。

 今寝たら確実に起きれなくなる。


「パン食うか。」


 男は机の上に転がっている1つの半額パンを手に取り食す。


「ギリギリ出勤だからな。時間も余りない。」


 いつもの如く同じセリフをぼやき、すぐさま顔を洗い、歯を磨く。

 そして、特に髪を整えずスーツへと着替える。


「はあ。今は7時30分か。」


 男は6階建てのマンションに住んでいる。

 そのうちの5階に部屋を借りているため、毎朝下までエレベーターで降りていく。


 そして使い古した白いクロスバイクに乗り、今日も仕事先へと向かっていく。





























「おはようございます。」


 特に声を張るほど大きな声ではない。

 小さいような、そうでもないような声量で工場前の守衛さんに挨拶をする。


「おはようございます。」


 ニッコリと挨拶を返してくれた。


 そんな俺は工場へ入るため、自身の入門カードをケースへ差し入れる。


「自転車置き場は毎回多いなあ。」


 毎度毎度入り口から手前は埋まっており、奥側へと誘導される。

 この動きが時間を無駄に消費させる。


 そして従業員用の入り口へと向かい、いつものように自動扉を潜り、更衣室でスーツから仕事着へと着替える。


 工場勤務ではあるが、別に工場で何かを作る人ではない。

 工場生産におけるサポートをするのがメインである。


 つまり、この工場に雇われた訳ではない。

 親会社は別にある。


 だが、毎日毎日同じルーティンをこなしている訳で、改めて俺は人生を振り返った。


 毎日毎日同じで何も変わらない。

 自分が生きていくためのやり甲斐という希望は無い。

 ただ浪費する日々に飽き飽きしかけている。


 別に世界に絶望したとは思わない。

 理不尽なのは皆同じだ。

 ただ、俺のつまらない人生は別だ。


 我ながら行動的に何事もこなしてきた。多分・・・

 IT関係、肉体労働、会話、料理、ダンス、音楽、イラストなどなど。


 しかし、俺の人生を満たせるものは何も無かった。

 つまり俺という人間はこの程度の人間だったという事だ。


 何も叶わない。何も形にならない。

 形になっても向こうから去っていく。


 これでも結婚はしていたし、子供はいた。

 だが、何事も全てが上手くいく訳でない。


 自分がどんなに頑張り考えても、人は、人というのは最終的に己以外は全く考えられない。


 自分も似たような事はあった。

 だが、少なからず何が間違えで、何が正しいのかを判断をできた方だ。


 常に振り返る癖がこう言った自分を作り上げていったのだろう。

 そう思えば、やってきた事は無駄では無かった。


 まあ、それはあくまで自分だけの話だ。

 それを人も同じだと思うのは身勝手な話で。


 だからこそ、俺は自分の詰んだ人生と何事も成就しない世界に絶望している。

 理不尽さは理解してる。

 しかし理解するのと、その感情を飲み込むのとでは訳が違う。


 俺は完璧超人ではない。ただの器用貧乏だ。

 他の人のように優れた一点もない。

 大きな事を成し得ず、ただ失うだけの日々を過ごしている。


 もう死にたい。


 この感情は高校生から思い始めていた。


 辛い事や悲しい事、苦しい事はある。

 その中での喜びもまた然り。


 それでも俺自身は不要な存在では?

 世界で何も成し遂げられないのに居る意味は?

 何にも必要とされないのは知ってる。

 だからこそ、俺は不要では?とより強く思ってしまう。


 勝手に決めつけるのもどうかと思う。

 しかし、先ほど述べたように理性と感情は切り離せない。


 だが自殺する事だけは断じてできない。

 今まで育ててきてくれた親や周りに示しが付かない。


 ならば、事故死または病死など不慮の事故なら?とそんな事を思いつつも、そんなタイミングはない。

















 と思っていた。自分では当たり前のように安心安全を常に心掛けていた。


 そう思っていた。


 ある高所作業中、装着していた安全帯の紐が切れてしまい、吊るしてあった身体はそのまま下へと落ちてしまった。


 落ちている時、俺は安全帯、ヘルメット共にしっかり確認した筈だ。と最初に思った。


 しかし、下へと近付くに連れ、ようやく眠れる。と謎の一安心が過った。



























 真っ白だ。空なんてモノも見えない。痛みもない。ただ浮遊感というか、何か浮いている。


 神様?白く大きな翼、そして大きな図体、そして強く眩い光が俺を照らす。


 俺の身体を優しい翼が包んでいる。

 まるで、母親の腕に抱かれているようだ。























「うーーーん。」


 夢オチか。

 目覚まし目覚まし・・アレ?スマホない?


「アレ!?スマホは!?」


 いつものようにスマホを弄っていた身分からすれば冷や汗もんである。


「おいおい!マジか!・・・・・うん?」


 というか、そもそも俺は。それに。


「こんなボロ屋だったか?」


 物置小屋のような小さな部屋にボロボロのベッド、窓というガラスは無く、外の世界が穴だらけの壁から見える。


 荒んだ畑にボロボロに崩れた建物たち。雑草は生え、木々や森が周りを囲む。


「山が見える・・・・・いや待てよ!

 そもそも山という山の田舎に住んだ記憶はない。おかしい。」


 確か仕事へ行った気が。


 何となくボロ家から外へ出た。


 ちなみに服は作業着だ。

 俺は頭の頭巾とマスクを取る。


「ここは一体・・・・・・」


 明らかに人が住んでいる形跡は無い。

 むしろ、周りの状況から近くに村があるとも思えない。


「俺に何が・・・・でも死んだのは確かだ。ちゃんと安全管理もしてたけどな。

 まあ、それでも高い所から落ちて生きているケースはほぼ無いし。が、どう見ても。」


 生きている。5体満足に。

 何なら銀歯だった歯すら治っている。

 身体も仕事疲れやストレスが抜けているようだ。


 何のおまけかは知らないが。


「違う世界とか?なんちって!そんな都合のいい事が。」


 でもだ。でも、試しに・・・・・


「ステータス!」


 ・・・・・・・シーーーーン。


 誰も見てなくて良かった。


「メニューとか?」


 ブォンと得体の知れない画面が表示される。


「っ!少し驚いた。メニューで開くのかよ。

 ステータスにしとけよ。

 ・・どれどれ。チートはあるのかな?」


 やはり定番と言えばチートよ。

 これが無いとね。


「うーーむ。『召喚士』と『使役』??」


 完全なるサモナーじゃねえか。


「えーーと『召喚士』はなになに?

 『1年に一度自身の想像を召喚することができる。(・ランクに準ずる・召喚するものは人で無くとも可能)』

 ほうほう。なるほどね。はい?」


 待ってくれ。普通に考えてだ。

 確かに強いは強い。自分の想像を召喚できるのはね。


 でもね、仮にもサモナーなのに1年に一度って!

 どうすんねん!一回使ったら年内ほぼ終わりやん。


「レベルに準ずるとも書いてるが、俺にレベルを稼ぐための手段がない。

 それに召喚したとは言えど、そのキャラが必ずしも強いステータスとは限らない。」


 召喚条件とか書いてねえし。説明が・・・・・とほほほ。


「いやだが、この『使役』は」


 どれどれ。


『忠誠心が高ければ高いほど、召喚した人物のステータスが倍になる。

 命令が効かせられる。』


「これは・・・・強いが・・・何とも。

 って、命令ができるのは知ってるわ!」


 説明が足りない。が、どうするか?

 おや?初心者サービス?


 俺はその初心者サービスをタッチする。


「うん?おお〜。」


 ガチャ券10連、LR召喚の触媒、SSR召喚の触媒、1万ゴールド、回復系ポーションを各種、小さな杖、小さな王冠が配られた。


「というか、召喚士の意味な。

 ガチャって、俺悲しくなってきた。」


 もしかして、この『召喚士』はネタでは?

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