第27話

輝く光の中から、若き陶芸家、寺井星良が姿を現した。目を覚ますと、見知らぬ景色が広がっていた。彼女の心の中には確信が湧いてきた。自分がユウキヨと呼ばれる異世界に召喚された。そして、彼女の目の前に広がる壮大な建物は、明らかに通常の世界とは異なる場所だった。水晶で彩られ、輝く光を放つその建物は水晶城と呼ばれる場所だと、星良は直感した。

「ここはどこだろう?」彼女はそっとつぶやいた。その声は空気を震わせ、星良自身の耳に戻ってきた。彼女の眼差しは広大な城内を探索し、壮麗な彫刻、鏡のように光り輝く床、そこに映し出される自分の姿を見つめた。

星良は深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。まずは落ち着かなければ、と自分に言い聞かせた。何が何だかわからない状況に戸惑うのは当然だった。しかし、星良は陶芸家として培った集中力を引き出し、自分自身に静寂をもたらすことに成功した。

「まずは、置かれた状況を整理することから始めないといけないわね…」星良はそうつぶやいた。

なぜ自分がここにいるのか、どうすればこの場所から抜け出せるのか、そして何よりも自分が何をすべきなのかを考えた。


星良が自身の置かれた状況を整理し終え、次に何をすべきかを考えた時、最初に頭に浮かんだのは人と話すことだった。他の人がいるならば、ここがどこで、自分が何故ここにいるのか、そして何をすべきなのかを理解するのに役立つだろうと星良は思った。そのため、星良は周囲を見渡し、自分がいる城の中に他の人がいるかどうかを確認し始めた。


彼女の視線が水晶城の広大なホールに戻ったとき、遠くの角に人の姿を見つけた。彼はなにかを修繕しているようで、一生懸命働いている様子だった。

星良は彼に近づき、静かに声をかけた。「すみません、ちょっとお時間いいですか?」

しかし、男は彼女の言葉に一切反応しなかった。もしかすると、彼女の声が聞こえなかったのかもしれないと思い、星良はもう少し大きな声で再度呼びかけた。「すみません、ちょっとお時間いいですか?」

それでも、男はまったく反応を示さなかった。彼はただ黙々と作業を続け、星良の存在に気付いていないかのようだった。

星良は少し困惑した顔をしたが、すぐに何が問題なのかを理解した。彼女がユウキヨという異世界にいるのだから、ここでは言葉が通じないのかもしれない。星良が日本語で話しても、それが理解できる人がいるわけではないのだ。


星良は近くにいる別の人に話しかけてみた。その男性の名前は和田悠介、彼の目は不安げで、しかし親切そうな笑顔を浮かべていた。

「すみません、ここはどこですか?」と、星良は尋ねてみた。しかし、言葉は悠介には通じないようだった。彼は自分の耳を指して、首を振った。星良の心は一瞬、冷たい絶望に包まれたが、すぐに彼女は落ち着きを取り戻した。

悠介は星良に対する親切さを失わなかった。言葉を理解していないことを示す彼のジェスチャーは、彼が何とか星良とコミュニケーションを取ろうとしていることを示していた。星良もまた、頷いて彼に感謝の意を示した。

「ここは...」と悠介は自分の手を広げて、周りの風景を指した。その手つきはまるで画家が一枚の絵を描くかのようだった。星良はそれを見て、彼が言おうとしていることを理解した。

「水晶城...」星良は悠介のジェスチャーを追いかけながら自分の言葉で繰り返した。

悠介は星良の言葉に驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔に変わった。彼は星良に向かって親指を立てて、肯定的な意味を示した。言葉は違うかもしれないが、コミュニケーションは可能だと星良は感じた。星良は彼に微笑んで頷き、この新たな挑戦に向き合う準備ができていることを示した。


異世界に来て3か月が過ぎた。わずかな時間だが、星良にとってはあたかも永遠のように感じられた。新しい言葉、新しい生活、新しい自分。星良は日々、新たな挑戦に立ち向かっていた。

この3か月間で、星良はこの異世界の言葉を驚くほど早く習得した。毎日、人々との会話を通じて新しい言葉を学び、そしてその言葉を用いて更に新しい言葉を学んでいった。今では、言葉によるコミュニケーションに問題はほぼなくなっていた。


それだけではない。異世界に来てから、星良は剣術の稽古を始めた。京都の陶芸家から、異世界の剣士へと一変した彼女の姿は、自分でも信じられないほどだった。そして、その剣術の腕前もまた、星良がこの異世界に来てから大きく上がった。

星良は刀を手に取り、繰り返し繰り返し同じ動きを繰り広げた。その動き一つ一つが、自分の内に秘められた力を引き出すかのようだった。また、剣術の稽古は星良に、自分自身と向き合い、自分の限界を突破する勇気を与えてくれた。

「おお、星良! お前の剣の技はすばらしいぞ!」と、和田悠介が笑顔で星良を褒めた。彼は剣術の師範であり、星良の新たな挑戦に対する熱意を見守ってくれた。

「まだまだです。」と星良は返した。


稽古場を出ると、すぐに目に入るのは、星良が作り出した大型のクレイ・スプライト、タイガだった。

タイガは星良の魔力を受けて、自身を創り出した星良の体ほどもある大きさにまで成長した。大きな体と力強い表情が特徴で、その存在感は一目でわかる。体の一部を変化させて物を掴んだり運んだりすることもでき、街の様々な場所で活躍していた。

「タイガ、今日はここまでよ。」と星良は言った。タイガは彼女の指示を素直に受け入れ、頭を少しだけ下げて了解の意を示した。

タイガは何よりも星良の言葉を尊重し、彼女の指示に忠実に従っていた。それは、星良がタイガを作り出し、そして育ててきた結果だった。


星良が剣術の稽古を始めた頃から、タイガはそのそばで一緒に成長してきた。お互いがお互いを支え、励まし合いながら、一歩一歩前進してきたのだ。

そして、タイガは街の人々にとっても重要な存在になっていた。彼の力強さと忠実さは、街の人々に安心感を与えていた。彼は道路の修理から荷物の運搬まで、どんな仕事でもこなしてくれた。それゆえに、タイガを見るたびに、街の人々は笑顔になる。

また、タイガの存在は、星良がこの異世界で自分の居場所を見つけるのを助けてくれた。彼女が作り出したタイガが、この街で必要とされていることは、彼女自身もこの街で受け入れられている証だ。


星良は、このユウキヨという国について少しずつ理解を深めていた。この国には6人の宗主がおり、それぞれが自分の城を持ち、その領土を支配していた。


石井淳夫は水晶城の宗主で、彼の城は学問と芸術の中心地として知られていた。彼は常に新しい情報と洞察を求め、領土の進歩と繁栄を促進していた。水晶城は沿岸地域に位置し、その領地は美しいビーチと温暖な気候で知られていた。地域の住民は知識と芸術を愛し、その文化は華やかさと洗練を備えていた。それはユウキヨの西部に位置していた。


月詠智広は翡翠城の宗主で、深遠な知恵の象徴であった。彼の策略と独自の見識は他の宗主たちから尊敬されていたが、その冷静さはしばしば感情を欠いていると解釈され、他の人々との間に隔たりを生むことがあった。翡翠城は山間に位置し、その周囲には美しい森と清らかな湖が広がっていた。地域全体が豊かな自然に恵まれており、古代の知恵と自然の調和が深く尊重されていた。それはユウキヨの北東部に位置していた。


山本昭弘は雷鳴城の宗主で、彼の城の戦士たちは彼の強力な指導の下で訓練を受けていた。彼は公正で厳格であり、雷鳴城の一人ひとりが正義と義務を果たすことを期待していた。雷鳴城は荒れ地の中心に位置し、その地域は荒涼とした風景と頑丈な岩石で特徴付けられていた。それにもかかわらず、その人々は耐え忍び、力強く生き抜く術を知っていた。それはユウキヨの東部に位置していた。


松尾晴美は星煌城の宗主で、彼女の城は平等と友愛の象徴となっていた。彼女は自分の人々が幸せで満足していることを確保し、平和と調和を追求していた。星煌城は平野地帯に広がり、その地域は農業と手工業で生計を立てる町々で構成されていた。その地域の住民は互いに助け合い、共同体の強さを重視していた。それはユウキヨの北西部に位置していた。


風間久美子は月影城の宗主で、彼女は謎めいた秘密主義と冷静な魅力で知られていた。彼女の城、月影城は密輸や情報の取引の中心地となっていた。月影城は湿地帯に位置し、その地域は密林と深い沼地で特徴付けられていた。この難しい地形は、情報の交換や密輸の取引に適した隠れ家を提供していた。それはユウキヨの南西部に位置していた。


焔川勇次は炎煌城の強大な宗主で、彼の執拗な精神と不屈の意志は彼の城の人々に強烈な印象を与えていた。彼は力と規律を尊重し、それが領土の秩序と安全を保証すると信じていた。炎煌城は火山地帯に立地し、その領地は溶岩流と硫黄湖で特徴付けられていた。その困難な環境は領民を鍛え、彼らは耐え抜く力と不屈の精神を発揮していた。それはユウキヨの南部に位置していた。


これらの情報を把握しながら、星良は各宗主とその領土の特性、そしてそれがユウキヨの文化と社会にどのように影響を与えているかを理解し始めていた。


星良が石井淳夫の城、水晶城へと足を運んだのは、彼から直接呼び出されたからだ。淳夫は水晶城の宗主で、豊かな知識と探求心を持つ人物だ。彼の城は学問と芸術の中心地として知られており、美しいビーチと温暖な気候が特徴の沿岸地域に位置していた。その地域の住民は知識と芸術を愛し、その文化は華やかさと洗練を備えていた。


星良が淳夫の城に到着したとき、彼はすでに高い天井と広い空間、そして美しい芸術作品が飾られた豪華な客室で待っていた。星良が部屋に入ると、淳夫は微笑んで迎えてくれた。

「星良、こちらへお越しいただき、ありがとうございます。私の城が気に入ったかな?」淳夫が満足そうに尋ねた。

星良は周囲を見渡し、細部まで手が込んだ装飾や壮大な風景画に目を奪われた。それぞれの作品がこの地域の人々の愛と誇りを示しているように見えた。

「ええ、素晴らしいですね。ここは本当に学問と芸術の中心地だと感じます。」星良が率直に答えると、淳夫はにっこりと微笑んだ。

「君が作り出したタイガも素晴らしいね」淳夫が言う。

しかし、淳夫の表情は穏やかであり、そして彼が次に言った言葉は星良を安心させた。「タイガの出来には、本当に感銘を受けたよ。そして、その街での活躍にもね。君が彼を作り出したのなら、君の才能には敬意を表するべきだと思う。」と、淳夫は率直に星良の才能を認め、褒め称えた。


石井淳夫はしっかりと星良を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。「実は、今日呼んだ理由があるんだ。それは君の力を借りたいということなんだが...」彼の声は一瞬低くなり、星良はすぐにその重大さを察した。

石井は星良の反応を見つつ続けた。「それは、炎煌城に関することなんだ。君も知っての通り、炎煌城の宗主、焔川勇次は力と規律を尊重する人物だ。そして、その領地は溶岩流と硫黄湖で特徴付けられている困難な地域だ。だが、最近、彼らの中から不穏な動きが見受けられるんだ。」

淳夫の言葉に、星良は思わず息を呑んだ。「不穏な動き…それはどういうことですか?」彼の声には懸念が混じっていた。

「まだ具体的なことは分からない。だが、彼らの動きは普段とは違う。何かを企んでいる可能性があるんだ。それが何であれ、このユウキヨの平和を乱すものであれば、我々は事前に対策を練らなければならない。」淳夫の声は深刻さを増していった。

星良は少し考え込んだ。その後、彼はゆっくりと頷いた。「理解しました。なるべく詳細な情報を収集するために、私の力を使います。」

淳夫は星良の返事に感謝の笑顔を見せた。「ありがとう、星良。君の協力には大いに期待しているよ。」


星良は炎煌城の焔川勇次という男を思い浮かべる。勇次と言えば、力と規律を尊重し、不屈の精神力を持った男だ。異世界での日々の中で、星良も耳にしていた。勇次が近頃、軍事力の強化に力を注いでいるという噂だ。そしてその影には、現在の天覧、小野寺豪がいる。焔川が推薦して就任したとの噂だった。

それらの情報をつなげると、焔川と小野寺が共に力を合わせ、権力を増していることが見えてきた。しかし、焔川と他の宗主たちはこのユウキヨ国を支える6人だ。彼らが争うことは本当にあるのだろうか。

その疑問を和田悠介に向けて、星良は尋ねた。「和田さん、宗主同士で争うことはあるんですか?」

和田はしばらく黙って考えた後、星良を見つめて答えた。「あるよ、星良。宗主たちも人間だからな。過去に何度も内戦のようなことが起こった。大きな影響を及ぼした事件もある。だから、その可能性を否定することはできない。」

和田の言葉は重く、それは星良の心に深く刻まれた。

「理解しました。焔川勇次の動きには注意を払います。」


ユウキヨの広大な世界の一角にある猫又族の部落に向かう途中、星良は心中で思案を巡らせていた。炎煌城についての情報収集という重大な任務。それを達成するためには、猫又族の協力が必要だと彼女は考えていた。

部落に到着した星良はまず、長老の家へと向かった。木々が絡み合い、小川が澄んだ音を立てるその場所は、いつものように落ち着いた雰囲気を醸し出していた。長老の家は部落の中心に位置し、猫又族の象徴的な存在であった。

長老と星良は既に面識があった。部落とユウキヨの他の部分とのパイプ役として、星良は度々ここを訪れていた。そのたびに長老は彼女に対し、敬意と温かさをもって接していた。


長老の前に立つと、彼は微笑みながら彼女を見上げた。「星良さん、久しぶりだね。何か用事でもあるのかい?」 長老は親切な眼差しで尋ねた。

星良は、自身の任務について控えめに、しかしはっきりと説明した。「長老、実は炎煌城の情報収集のお願いがあります。石井さんからの依頼なんです。何か情報を得るために、猫又族の皆さんの助けが必要なんです。」

長老は星良の話をじっと聞き、少し考え込んだ。「なるほど、それならわかった。我々猫又族はあなたを手助けすることにしよう。それにより、ユウキヨがより平和であることを願っている。」


「美晴を呼んできてくれないか?」

星良が長老の家を訪れてからしばらく経ったとき、長老は部族の若者たちに対してそう指示した。彼が呼び出したのは、16歳の美晴だった。美晴は猫又族の中でも特に優れた能力を持つ若者であり、部落の中でも非常に人気があった。

まもなく、美晴が長老の家に姿を現した。彼女は一見すると人間の少女に見えるが、尾と耳は猫そのものだった。その金色の目には好奇心が溢れ、茶色と白のまだら模様の尾は活発に動き、黒い髪は柔らかく揺れていた。


「美晴、久しぶりだね」星良は彼女に微笑んだ。

美晴もまた明るい口調で応じた。「星良さん、お久しぶりです! 何か面白いことでもあったんですか?」

星良が彼女に微笑みを返しながら、長老が話を進めた。「美晴、今回は星良さんの依頼だ。彼女と一緒に炎煌城へ向かってほしいんだ。」

美晴の金色の目がキラリと輝いた。「炎煌城ですか? それは面白そう! 星良さんと一緒ならなおさらだね!」


美晴は活発で好奇心旺盛な少女だった。明るく陽気で、物事に対するポジティブな姿勢が特徴だ。彼女の猫のような敏捷さと優れた視力、聴力は、情報収集において大いに役立つだろう。

長老がニコリと微笑みながら言った。「美晴、君の活発さと好奇心、そして能力を信じてる。星良さんをしっかりサポートしてくれ。」

美晴はにっこりと笑いながら頷いた。「任せてください、長老! 星良さん、一緒に楽しい冒険に出ましょう!」

こうして、美晴と星良の炎煌城への旅が始まったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る