第17話

明け方、シルバーグローブの静けさは何か特別なことが始まろうとする予感で一杯だった。それはアリアーナの儀式の始まりだった。


エルデンはアリアーナにとって最も安全で、力を最大限に引き出せる場所として、村の中心にある神聖な祭壇を選んだ。祭壇は古代エルフによって建てられ、世代を超えて受け継がれてきた。その祭壇の上で、アリアーナは黒い宝石の前に立っていた。

エルデンはアリアーナの横に立ち、神聖魔法の呪文を唱え始めた。「アルヴィア・レフィオーラ…」エルデンの声は、森の中に静かに響き渡った。その言葉には古代エルフの力が宿っていて、アリアーナはその力を感じ取り、それに応えるように自分自身の力を引き出した。

「エルフの神よ、我々の声をお聞きください。この少女に力を貸してください…」

そして、アリアーナは黒い宝石に向けて手を伸ばし、魔力を注ぎ込んだ。その瞬間、宝石から強烈な黒い光が放たれ、アリアーナを襲った。

(痛い…でも、私は絶対に負けない…)


エルデンの眉間に深い皺が刻まれていた。黒い光がアリアーナを包み込み、彼女の悲鳴が響き渡る。彼女の手から滑り落ちた黒い宝石は、一瞬で地面に落ち、その場に響く小さな音だけが空間を満たした。

「アリアーナ!」蒼汰が叫び、彼女の方へ駆け寄った。彼女は青白い顔をして目を閉じ、息もほとんどしない。エルデンが駆けつけ、彼女の脈を確認した。彼の顔色は彼女の様子を見て一層深く陰り、彼は深く頷いた。


「彼女は生きていますが、神聖魔法の反動で深い眠りに落ちてしまったようです...」エルデンは静かに告げた。蒼汰の顔色は一層青ざめ、彼はアリアーナの手を握りしめた。

「アリアーナ...」彼の声は痛々しく、彼の顔は彼女の名を呼びながら苦痛で歪んだ。

エルデンはゆっくりと立ち上がり、シルバーグローブの他の住人に助けを求めるために部屋を後にした。蒼汰はそこに残され、アリアーナの手を握りしめ、静かに彼女の安否を祈った。

一方、アリアーナは自分が意識を失ったことに気づいていた。彼女は自分の中で起きていることを理解していた。神聖魔法の反動で深い眠りに落ちてしまった彼女は、自分の体が動かないこと、自分の意志が体に伝わらないことに恐怖を覚えていた。

(でも...でも、大丈夫。蒼汰さんが、蒼汰さんが私を守ってくれる。)

それが彼女の心の支えであり、彼女を励まし続ける唯一の希望だった。彼女はその希望を心に抱きしめ、再び神聖魔法の力に抗おうとした。


アリアーナが深い眠りについた瞬間、蒼汰の頭の中では解決策が縷々と絡み合っていた。彼の手の中にはエーテルウェーブ・クリスタルが握られていた。この小さな透明な石には、魔法の力が込められていて、遠く離れた人々と通信を取ることが可能だった。

「エーテルウェーブ・クリスタルに情報を送る、それが唯一の手段だ...」

蒼汰はエーテルウェーブ・クリスタルに向かって声をかけた。「黒い宝石に取り込まれた者の救済方法を知る者、またはそれを探し出す手段を知る者、もしいれば助けを求めます。」彼の言葉はエーテルウェーブ・クリスタルに取り込まれ、エネルギーの形で他のクリスタルへと伝播していった。

時間が過ぎ、蒼汰は返事が来ることを待った。しかし、彼の頭の中には、もしも返事が来なかったらどうしようという不安が強まっていった。

しかし、その時、エーテルウェーブ・クリスタルが微かに光り、ほんの小さな音を立てた。それは返事が届いた合図だった。

彼がクリスタルを覗き込むと、そこには文字が浮かび上がっていた。「フウカ」という名前が署名されており、そのメッセージには黒い宝石のこと、そして、その中に閉じ込められたアリアーナを覚醒させるための方法が詳細に書かれていた。

「これが求めていた答えだ...」と蒼汰はつぶやいた。彼の目には少しの希望の光が戻ってきていた。


アリアーナと深い絆を共有する者、つまり蒼汰の感情を引き出す。愛の力は黒い宝石の魔力を打ち破ることができると言われている。しかし、これは最も危険な方法であり、蒼汰自身がその力に取り込まれる可能性がある。

蒼汰はアリアーナに近づき、手を握る。そして、戻ってきてほしいと強く願った。黒い光が蒼汰を覆う。蒼汰はアリアーナの意識の中に吸い込まれた。

目を閉じた蒼汰は、突然、自分が黒い宇宙に浮かんでいるような感覚を覚えた。そこは何もない、ただ深い闇だけが広がる世界。それはアリアーナの心の中、黒い宝石が彼女の精神を閉じ込めた闇の世界だった。

彼女はここでどれだけの時間を過ごしていたんだろう…。


そして、その闇の中に一点、淡い光が見えた。それはアリアーナの魂、彼女の存在を象徴しているかのような煌びやかな輝きだった。しかし、その光は闇に包まれ、ほんの僅かしか光を放てていなかった。

蒼汰はゆっくりとその光に近づいていく。そのたびに闇が彼を引き寄せようとするが、彼は自分の愛情を力に変え、闇を押し返した。彼の中に湧き上がるのは、ただ一つ。アリアーナを救い出す、その強い決意だけだった。

「アリアーナ…」彼の声は闇を切り裂き、静かに響き渡る。「もう怖がらなくていい。君を救い出すよ…」

その言葉とともに、蒼汰の身体から放たれる光が強くなり、闇を追い払い始めた。それは愛の力、彼の心から溢れ出る情熱と希望の光だった。闇は次第に退き、アリアーナの魂を包む光がより明るく輝き始めた。

「蒼汰…」微かに聞こえるアリアーナの声。彼女の声には驚きと安堵、そして何よりも喜びが込められていた。彼女は待っていた。蒼汰が彼女を救い出すことを。

「もう大丈夫だよ、アリアーナ。一緒に帰ろう…」蒼汰はそう言い、アリアーナの魂を優しく抱きしめた。


黒い宝石の中から、突如として一体の巨大な影が現れた。それは宝石の力そのものを形にしたような存在だった。その影はふたりを見下ろし、鋭い眼光で見つめていた。

(これが黒い宝石の本質…恐怖、絶望、そのすべてを具現化した存在だ)

蒼汰は闘志を燃やし、アリアーナを引き寄せて自分の胸に抱きしめる。その目には決意と不屈が宿っていた。

「アリアーナ、君と一緒に戦う。この闇を追い払うんだ」

「うん…蒼汰、一緒に…」アリアーナの声は固く、その中には揺るぎない信念があった。

二人は立ち上がり、前を向く。そこには黒い宝石の化身とも言える闇の巨大な影が立ちはだかっていた。その影からは強大な圧力が放たれ、空気が震えるほどだった。

しかし、二人の心は一つになり、その光は闇の影を照らし始め、闇は少しずつ後退していく。それはまるで、夜明けの光が夜の闇を追い払っていくかのようだった。


「君を許さない!」蒼汰が叫んだ。その声は力強く、黒い宝石の影に突き刺さった。

その瞬間、蒼汰の身体から放たれる光が一層強くなり、闇の影を打ち破った。それは強烈な光の衝撃波で、黒い影はその光に吹き飛ばされ、消え去った。

「アリアーナ…これで終わりだ…」蒼汰は安堵の息をつき、アリアーナを引き寄せた。彼女の瞳には感謝と愛情が溢れていた。

「蒼汰さん…ありがとう…」彼女の声は震えていたが、その中には明るい希望があった。二人はその後、宝石の中から脱出し、現実の世界へと戻っていった。


二人は、アリアーナの精神世界から現実の世界へと戻った。戻ると、周囲の人々から驚きと歓喜の声が上がった。神聖魔法使いたちが立ち上がり、二人を囲み、喜びの言葉を浴びせた。黒い宝石はその力を失い、ただの石になってしまった。

「おめでとう、アリアーナ。そして、蒼汰…ありがとう」神聖魔法使いたちのリーダーであるエルドリッジが声を上げた。

蒼汰は頷き、エルドリッジに感謝の言葉を述べた。そして、そっとアリアーナに手を差し伸べ、彼女を引き寄せた。

彼はそっとアリアーナに一つのペンダントを渡した。それは美しく輝く青色の魔法の石が嵌められたペンダントで、蒼汰が自分で作り上げたものだった。


「これは…」アリアーナはペンダントを見つめ、驚きの色を浮かべた。


「アリアーナ、これは君へのプレゼントだ。儀式が終わったら渡すつもりだったんだけど、今、君に渡したいと思ったんだ。」蒼汰は優しく告げた。

アリアーナはしばらく無言でペンダントを見つめていたが、やがて彼女の瞳からは涙が溢れ、嬉しそうに微笑んだ。

そして、その感情が溢れ出すように、彼女は思わず蒼汰に飛び込んで抱きついた。


「蒼汰…」その声は微かで、しかし心からの感謝と愛情がこもっていた。

蒼汰はアリアーナが抱きついてきたことに少し驚きつつも、その感情に応えるように彼女を抱きしめ返した。その抱擁は、夢の中で蒼汰がアリアーナにしてくれたような、温かく優しいものだった。

「アリアーナ、君を救うことができて僕は嬉しい。」蒼汰はそう告げ、アリアーナの頭を撫でた。

彼の言葉を聞いたアリアーナは、目を閉じてその感触を感じ取った。その中には安堵が満ちていた。


その瞬間、周囲の神聖魔法使いたちからは拍手と歓喜の声が上がった。彼らは二人の絆と愛情に感動し、その姿を祝福していた。

そして、神聖魔法使いたちの前で交わされた蒼汰とアリアーナの誓いは、二人の新たな人生の始まりを告げるものだった。

その夜、シルバーグローブでは何百もの灯火が点じられ、町全体が祭りの雰囲気に包まれた。神聖な神殿からの魔物の脅威が去り、平和が戻ったことを祝うための祭りだった。しかし、それ以上に町の人々が祝っていたのは、アリアーナと蒼汰の勇敢な行為だった。

そのような大勢の前で注目を集めるのは、蒼汰にとって新鮮だった。彼は多少の不安を感じながらも、アリアーナとともに祭りの賑わいの中を歩いた。アリアーナは蒼汰の手をしっかりと握りしめていて、その温もりが彼の心を落ち着けてくれた。

蒼汰は自分自身にそのことを思い出させ、胸の高鳴りを抑えた。


一方、アリアーナもまた内心で混乱していた。彼女は蒼汰を家族以上の存在として見ていたが、奴隷としての立場から、その感情を直接伝えることはできなかった。しかし、今夜は特別だった。彼女は自分の感情を隠すことなく、蒼汰の手を握り続けた。

(蒼汰さん…)

アリアーナは自分の心の中で蒼汰の名前を呼んだ。そして、蒼汰が自分を見てくれることを願った。そして、その祈りは、祭りの中の一つの小さな瞬間となって、星空に届いた。


蒼汰とアリアーナは少し離れた場所に移動した。その場所はシルバーグローブの森の中、静かで落ち着いた場所だった。月明かりが木々を照らし、幻想的な光景を作り出していた。

祭りはまだ続いていた。楽器の音色が鳴り響き、笑い声と会話が交じり合って、それが一つの響きとなって街を包んでいた。しかし、その喧騒から少し離れた場所、シルバーグローブの森の中では、月明かりが木々を照らし、幻想的な静寂が広がっていた。


「主人、私たちはここでしばらく過ごしてもよろしいですか?」

アリアーナの声は小鳥のさえずりのように、穏やかで、しかし何かを訴えているようにも聞こえた。その瞳は蒼汰の心を揺さぶった。彼女の眼差しは、彼に何かを伝えようとしているようだった。

「もちろんだ、アリアーナ。何か心配事でもあるのか?」

蒼汰は彼女を尋ねた。彼の声はいつものように冷静で、しかし心配しきりのアリアーナに対しては少し柔らかさを感じさせた。


「主人が...もし異世界に帰られてしまったら、私たちはもう会えなくなるのではないでしょうか?」彼女の声は震えていた。

蒼汰は、その言葉を聞き、少し考え込んだ。確かに彼は異世界に来てから、彼の心の中には日本へ帰りたいという思いが常にあった。しかし、同時に彼はアリアーナと出会い、共に過ごす時間を通じて、彼女に対して特別な感情を抱き始めていた。

「それは...確かにその可能性はある。だが、今はそんなことを考える時ではない。君と一緒に過ごせる今この瞬間を大切にしよう。それが僕たちにとって最善だと思う。」

その言葉に、アリアーナの表情は少し和らいだ。月明かりの下で、二人はそのまましばらく無言で過ごすことにした。森の中の静寂が二人を包み込む。


森の中には、静かな風が吹き抜けていた。アリアーナは目を閉じてその風を感じ、蒼汰との距離をはかるように、静かに彼の存在を感じていた。

「蒼汰さん、私、蒼汰さんと一緒にいる時間が大好きです。」と、彼女は静かに告げた。

「それは、僕も同じだよ、アリアーナ。」

蒼汰の言葉が彼女の心を温めた。その一方で、蒼汰がこのヴィタリスから去ってしまうかもしれないという事実は、彼女の心を締め付けた。だが、彼女はその瞬間、自分の感情に気づいた。自分が蒼汰に対して何を感じているか、それが何なのか。彼女の心は告げていた。


その瞬間、突如として森を揺るがす大きな音が鳴り響いた。音は急に空気を裂くようで、静かな森が一瞬にして緊張に包まれた。

「これは……」

蒼汰は声を殺し、周囲を警戒した。祭りの騒音が突如遠のき、代わりに生じたのは不気味な静寂だった。アリアーナもまた蒼汰と同じように、周囲を見渡していた。

二人は森から祭りの会場に向かうことにした。月明かりが揺れる中、彼らは緊張感に身を硬くしながら森を抜けていった。だが、その途中で突如として目の前の闇が動き、巨大な影が現れた。

「主人、あれは……!」

アリアーナの声が震える。目の前に立ちはだかったのは、髑髏の顔と黒いローブを纏った巨大な存在、まるで死を象徴するような恐ろしい姿だった。それは名をグリムリーパーという、異世界特有のモンスターである。

「くそ、こんなところで……」

蒼汰は少しでもアリアーナを遠ざけようと、彼女の手を引いて後退した。しかし、グリムリーパーの冷たい視線は彼らを外さない。死を呼ぶその存在感に、森全体が震えているかのように感じた。

「準備をしろ、アリアーナ。戦うしかない。」

蒼汰の口からは、冷静ながらも強い決意が込められた言葉がこぼれた。


アリアーナの手が震えているのが感じられた。彼女の心情はその細い肩の震え方からも明らかだった。

(心配するな、アリアーナ。僕たちはここで絶対に倒れたりしない。)

蒼汰は固くアリアーナの手を握り返し、彼女の不安を静めようとした。

一方、アリアーナは深呼吸をし、自分の心臓の高鳴りを静めようとした。彼女の魔法の能力を信じて、彼女は自分の心を落ち着かせようとした。

「うん、分かった、蒼汰。私も戦うわ。」

彼女の細い手が、自分の杖を握りしめた。その杖からは、微かに魔力が感じられた。それは彼女が魔法を使えることを示していた。グリムリーパーが彼らに向かって迫る中、アリアーナは深呼吸をし、落ち着いた表情を見せた。


「水の精霊よ、私の言葉を聞き、力を貸してください。」アリアーナが声をあげ、杖を振ると、美しい水の精霊が現れた。

一方、蒼汰も自身の武器、銃“星光”を取り出し、準備を整えていた。彼の心は冷静で、冷静に状況を分析していた。

(まずは、アリアーナの魔法で距離を取る。その間に、僕は“星光閃”を準備する。一撃で倒すことができれば...)

「蒼汰さん、準備は?」アリアーナの問いに、「ああ、大丈夫だ。」と答える。

「それじゃあ、行くわよ!」アリアーナの指示と共に、彼らの戦いが始まった。


突如、戦闘の場に新たな存在が現れた。それは金色の髪をなびかせ、翠色の瞳を輝かせる美しいエルフの女性、リリアナ・シルバーシャインだった。彼女は淡い緑色の長いドレスをまとい、まるで森の精霊が姿を現したかのように、神秘的な美しさを放っていた。

リリアナは自然と共存するエルフとして、その素晴らしい能力と知識を使い、薬草を用いた回復魔法を使いこなしていた。それはエルフの村、シルバーグローブで育った彼女だからこそ可能なことだった。

「アリアーナ、蒼汰、お二人とも無事かしら?」リリアナの声は柔らかく、それでいて力強かった。

「リリアナ…!助かったよ!」蒼汰が声を上げた。

「何故ここに?!」アリアーナの声に驚きが混じっていた。

「皆が困っていると聞き、助けに来ましたわ。」リリアナは穏やかな微笑を浮かべ、しかし、その目は決意に満ちていた。

手には弓が握られており、その矢はグリムリーパーを狙っていた。リリアナの額にはエルフ特有の紋章が刻まれており、その紋章が輝きを放つと、弓の力は増幅され、矢は光を帯びて飛び去った。

矢はグリムリーパーに直撃し、その黒い外殻を貫いた。その一撃により、グリムリーパーの動きが一瞬、鈍った。それを見た蒼汰とアリアーナは、リリアナに感謝の意を込めて頷いた。

「ありがとう、リリアーナ。これで一息つける。」アリアーナはリリアーナに向けて微笑んだ。


グリムリーパーがリリアナの一撃によって動きを止めた瞬間、蒼汰とアリアーナは再び戦略を練り直した。蒼汰は星光と呼ばれる特殊な銃を、アリアーナは魔法の杖を手にした。そしてリリアナは、彼女の得意な神聖魔法の力を準備した。彼らの目には揺るぎない決意が宿っていた。

「アリアーナ、リリアナ、作戦だ!」蒼汰は声を張り上げ、銃を構える。その星光からは、特殊な光子弾が発射され、その一発一発がグリムリーパーに向けて飛んでいった。

一方、アリアーナは魔法の杖から強力な光を放つ。その光はグリムリーパーの視界を一時的に奪うためのものだった。そしてリリアナは、神聖魔法の一つである「ライトオブヒーリング」を発動した。その光は三人を包み込み、彼らの体力と魔力を回復させた。

その間に、蒼汰の星光から発射された光子弾が次々とグリムリーパーに命中していく。光子弾の力はグリムリーパーの黒い甲殻を突き破り、内部にダメージを与える。

リリアナの神聖魔法「ライトオブヒーリング」は、彼らの傷を癒し、疲労を吹き飛ばし、戦う力を与えた。彼女の魔法は、三人の精神力と肉体力を一瞬にして回復させ、さらに戦闘を続ける勇気をもたらした。

それと同時に、アリアーナの魔法でグリムリーパーの視界が奪われ、その動きが鈍くなる。その隙をついて、蒼汰は最後の一撃を星光で放った。その光子弾は、グリムリーパーの心臓部を直撃し、巨大な体を震わせた。

そして、まるで時間が止まったかのように、グリムリーパーはその場に倒れた。


グリムリーパーを倒した後、彼らの旅は再びエルフの村、シルバーグローブへと向かった。村に戻ると、その光景は彼らの想像を遥かに超えていた。何と多くのエルフが怪我を負っていたのだ。グリムリーパーの出現による混乱や、その直接的な攻撃によるものだろう。心配そうな表情を浮かべるリリアナの瞳には涙が滲んでいた。

蒼汰は困惑し、しかし彼はすぐに立ち上がり、村人たちに声をかけて回った。「大丈夫だ、もう安全だよ。グリムリーパーはもういない。」彼の声は、村人たちに少しでも安心感を与えるためのものだった。

一方でアリアーナはすぐに行動に移した。彼女もまた、回復魔法を使える一人だった。その才能は、彼女が神殿で修行を積んだ結果、身につけたものだった。

「リリアナ、わたしが治療を手伝うわ。」アリアーナはそう言って、すぐに魔法の杖を手に取った。

リリアナはアリアーナの言葉に感謝の表情を浮かべ、「ありがとう、アリアーナ。」と声を返した。

アリアーナはリリアーナと一緒に、怪我を負ったエルフたちの元へと駆けつけた。彼女たちは、一人ひとりの怪我を確認し、必要な治療を施していった。その手際の良さは、彼女たちが長年訓練を積んだ証だった。

アリアーナが魔法の杖を振るうと、その先端から白い光が放たれた。その光が怪我人の体に触れると、傷が次々と治っていった。その様子を見て、エルフたちは驚きと感謝の声を上げた。


アリアーナとリリアナが村人たちの治療を続けている間、蒼汰は村の長老であるエルデンの元へと向かった。エルデンは古代の知識を持つ賢者で、常に冷静で理知的なエルフだった。蒼汰はエルデンを尊敬し、その知識に頼っていた。

エルデンは蒼汰を見つけると、深い皺を刻んだ顔に微笑みを浮かべ、「蒼汰、よく戻ってきた。そして、我々を救ってくれて感謝する。」と声をかけた。

蒼汰はエルデンの言葉に頷き、「エルデン、ありがとう。でも、あのグリムリーパーは一体何だったんだ?なんでこんな村に来たんだ?」と素直に疑問をぶつけた。

エルデンは少し考えると、「あれは魔王軍の手引きではないかと思う。」と静かに言った。蒼汰はエルデンの言葉に驚きの表情を見せた。

「だとすると、なぜ?我々に何の利益が?」アリアーナが続けて質問を投げかけた。

エルデンはゆっくりと話し始めた。「蒼汰、君たちが黒い宝石を浄化したとき、その力が魔王軍の感知範囲に入ったのではないかと推測する。その力を感じた魔王軍が、我々の村を襲ったのだと思う。」

その言葉に、蒼汰は沈黙した。エルデンの言う通りだとすれば、これは彼らが引き起こした事態だ。黒い宝石を浄化した結果、魔王軍の目を引き、村が攻撃されたのだ。

しかし、エルデンはそんな二人を見て、「しかし、それは決して蒼汰たちの責任ではない。それは、ただの偶然だ。そして、君たちは村を救った。それが最も大切なことだ。」と声をかけ、彼を慰めた。


アリアーナと蒼汰は再び集まり、静かに夜の森を見つめた。その眼前に広がるのは、月明かりに照らされたエルフの村、シルバーグローブだった。その美しい景色は、まるで月下の夢のようだった。

蒼汰は深く息を吸い込み、「エルデンの言う通りだとすれば、これからは魔王軍にも目をつけられてるってことだよね。」と言った。その声は少し震えていたが、その目は固く決意に満ちていた。

アリアーナは蒼汰を見つめ、「それでも、私たちは前に進むしかないわ。私たちはすでに選んだ道を歩いている。」と強く言った。その言葉は、彼女自身への誓いでもあった。


その後の一週間、彼らは村を立て直すために、一緒に働いた。蒼汰は物資を集め、アリアーナとリリアナは治療を続けた。

村は少しずつ回復し、村人たちの生活も元に戻りつつあった。


その日、二人は村の人々に別れを告げ、再び旅路についた。その背中を見送る村人たちの顔には、感謝と期待が混ざり合っていた。彼らは、この世界を救うための戦いを続ける旅人たちを送り出した。

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